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今、何を考えてるの?
胡桃ちゃんのことかな? きっとそうだ。
胡桃ちゃんは、退院せず向こうの病院に残ることとなった。
記憶を失ったことの精密検査もあるし、何より覚えていない見知らぬ土地に戻るより、生まれ育った町で養生した方がいいと。
夕方になり駆けつけた、胡桃ちゃんに似たお母さんがそう言っていた。
お父さんもまた転勤届けを出し、親子三人で向こうの町で暮らすのだと。
「短刀、大丈夫だったんだ」
「うん、新品同様のままで落ちてた」
雨には濡れていたけれど、あの硬い大蛇の皮膚と格闘したというのにピカピカのまんま落っこちていた。
鞘にしまい、また朱色の布で巻き、ボディバッグに片づけ、行った時と同様、身に着けて持ち帰ってきた。
「あとで預かるね、もう出番がなきゃいいんだけど」
「あったら困るよ!」
「だけど、四人で戦ったんだよね?」
「そうだけど?」
「参ったなあ」
「参った?」
満兄さんが苦笑している。
首をかしげたら。
「あの短刀に触れることができるのは、姫とその婚約者だけだと言われてるんだ」
「へ?」
「それなのに、三人とも触れちゃったってことでしょ?」
「うん?」
「やっぱ三人の内の誰でもいいかもしれない」
「なにが?」
「天音の婚約者」
目を丸くした私に。
「ん~じゃ、オレにしとこ? 姫」
「え? 僕にしときなよ!」
いつの間にか、起きて話を聞いていたらしい凌ちゃんと慶寿の声に振り向いたら、宗丞と目があった。
「宗丞は? どうすんの? あ、姫の婚約者候補から降りたんだっけ?」
「っ!!」
からかうような慶寿に、宗丞が顔をゆがめて。
「降りねえし」
ブスッとした顔でそれだけつぶやいて窓の外を見た。
その耳が赤いことが嬉しくて、私は皆に気づかれないように俯いた。
だって、宗丞以上に赤くなってる、そんな気がしたから。
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