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満兄さんの車が私たちを迎えに来たのは、その日の夕方だった。
全員包帯だらけ、慶寿にいたっては、肋骨二本にヒビが入っていて、凌ちゃんの背中には鳥居にぶつかった時の大きな痣ができていた。
全員、精密検査をしたけれど、それ以外は切り傷だったり裂傷だったりと小さな怪我だけですんだのだけれど。
何があったのか、そう尋ねられても私たちは、わからないと首を振るだけ。
夕べの雨で神社が崩れ落ちたのに巻き込まれてしまったのだろう、とのことで片づけられた。
夜中にホテルを抜け出して何をしていたのか、と本来ならば怒られるべき出来事だろうに、先生方からは責められることはない。
ああ、もう、父様の手が回っているようだ、と苦笑した。
胡桃ちゃんは病院のベッドで昼過ぎに目覚めた。
だけど、宗丞以外の私たちを見て首をかしげた。
覚えていないのだという。
私たちの学校に転校してきたことも何もかも。
だけど、宗丞と再会できたことに喜び、一言二言言葉を交わし、それから私をもう一度見て。
宗丞をよろしくというように、微笑みながら頭をペコリと下げた。
その顔に、私は泣きそうになってしまって、ただ必死に頷いた。
うん、覚えていない方がいい。
胡桃ちゃんにとっては、この出来事は忘れてしまった方がいいものだ。
寂しいけれど、とっても寂しいけれど……。
「白龍様、ボクも見たかったなあ」
帰りの車の中で満兄さんが能天気な台詞をこぼす。
「神々しすぎたよ。もう一生会うことはできないんだろうなあ」
「そうかな? また、天音のピンチには、駆けつけてくれるんじゃない?」
「嫌だよ、もう!」
助手席の後ろでは窓にもたれかかる慶寿が、イビキをかきながら眠る凌ちゃんを自分のろっ骨に当らないようにガードしてる。
その凌ちゃんは本当に疲れ果てたように、反対隣に座る宗丞の肩にもたれかかり。
宗丞は、窓の外をじっと見つめていた。
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