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エピローグ
「天音、そろそろ彼らも十八歳となる。そうなったら」
「いたしません、まだいたしません、結婚なんかいたしません!!」
「ま、待ちなさい、天音!」
「いってきまーす! 帰りは満兄さん家で食べてきますー! というか、あまりしつこかったら満兄さんの家で暮らしますけど、よろしいでしょうか」
「それはっ、」
娘可愛さに狼狽える父様に手を振り、学校への道を急ぐ。
大声で泣いてみたい日もある。
わあっと怒鳴ってしまいたいことだって、いくつもある。
でも今日みたいに父様の顔を思い出し、笑いが零れる、そんな日もある。
「なんかいいことあったか?」
振り向くと宗丞が空を指さしている。
わかりやすく、私のご機嫌バロメーターが上々である証拠の彩雲があちこちに浮かぶ。
「そういえば修学旅行、行くんだって?」
「うん、行けることになった! ごめんね、また宗丞たちも付き合わせちゃうけど」
前から走ってきた車のスピードが速いことに気づいた宗丞が車道側にいた私の腕を引き、歩道の方へと寄せてくれる。
「あぶなっかしくて、おまえ一人で行かせらんねえだろ」
「は!? そんな言い方しなくても良くない? 一人でも大丈夫ですけど?」
「んなわけないだろ、天音一人にしといたら、寂しいって、空を鉛色にするくせに」
「もうっ、ムカつく!!」
こんなに晴れた空なのに、どこかでゴロゴロと雷の音がする。
落ち着け、私!
音に気づいた宗丞も焦ったのか、少しだけ黙り込んで。
「あのとき、」
「ん?」
「……、おまえは普通の子に生まれたかったって言ってたけどさ」
それは、あの、大蛇と戦った時のこと?
「俺は、お前が姫で良かったって思う。でなきゃ、側にいる理由見つけらんねえし」
ボソリと独り言みたいにつぶやいた宗丞は背を向けて足早に歩き出す。
「待って、宗丞、今のって」
「うるせえ」
「ねえ、もう一回言って」
「言わねえ、もう絶対言わねえ」
真っ赤になった宗丞の隣をスキップしはじめたら、気温がグングン上昇する。
「姫――! 今日、なんでこんな暑いの?」
慶寿が汗を拭きながら、私たちを待っている。
「天音ちゃん、おはよう! いい天気だね!」
眩しそうに天を仰ぐ凌ちゃんに釣られ、私たちも並んで空を見上げた。
私にはこの三人がいる――。
いつだって、遠慮のない仲間がいてくれる。
「ホント、わかりやすいやつ」
「うるさい」
見上げた空には、ギラギラ夏色の太陽と、浮かぶ虹色の雲の群れ。
だけど遠くで雷の音。
コロコロと変わるこの町の空模様は、いつだって私次第だ。
――お天道様は、いつも気まぐれ 終――
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