まさに、青天の霹靂

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 初めて宗丞に出逢ったのは、小学校三年生の時だった。  庭の鯉に餌をあげていた私の前に、アイツは突然どこからか現れた。 「なあ、お前が志龍天音?」  自分の家の庭に見ず知らずの同い年ぐらいの男の子がいて、私を見下ろしている。  誰? しかも、いきなり人のこと呼び捨て? 「……、誰よ、あんた」 「なあ」  私の質問に一切答えないまま、私の顔をまじまじと見つめて。 「お前の、目って、」  その後の言葉を遮らせるために、立ち上がり持っていた鯉用の餌をその子にバケツごと浴びせた。  私の心みたいに、モクモクと雨雲が湧き立ち、遠くでは雷鳴が鳴りだす。 「ってえな、なにすんだよ」  だって!! 言わなくったってわかるもん!  私の目の色のこと、人と違うって思ってるんでしょ!!  悔しくて頬っぺたを膨らまし口を尖らせて睨みつけていたら、私がなぜ怒っているのかが、ようやく伝わったみたいだ。 「俺、別にお前の目の色のことバカになんかしてねえから! ただ、ビー玉みたいで……、陽に当たってキラキラしてて、その……、」  消え入るような小さな声で「キレイだったから」と聞こえた気がした。  今思えば小学校三年生の男の子が、『キレイ』なんて言葉を使うのは相当恥ずかしかったんだろう。  照れ隠しにか、そっぽを向き舌打ちをして。 「俺、狼谷 宗丞。明日っから、お前と同じ小学校に通うから」  狼谷? 父様の秘書の狼谷さんと同じ苗字だ。知り合い?  声をかけようとした次の瞬間には、彼はうちの門を軽々と飛び越えていた。    ――ビー玉みたいにキレイ。  どこかで聞いたことある、そんな気がする――。   「バカじゃないの」  池の水面に写っていた私の顔は、なんとなく嬉しそうな顔をしていた。
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