助けて、五里霧中

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「最後に志龍御本家に姫が生まれたのは明治で、その時は鬼熊家、つまりは凌牙くんのご先祖様のとこに嫁ぎ、その前が東狐家。順でいくと狼谷家となるから宗丞くんがいいのかもしれないが、ただ」  う~んと満兄さんが渋るのには理由がある。 「宗丞くんが狼谷家の本家筋の子じゃないから?」  大人たちが噤む理由を、よそから嫁いできた結子さんはサラリと口にした。  そうだろうな、とは思っていた。  宗丞だけは子供ができなかった狼谷家の遠縁から養子縁組されてやってきたから。  私の、ために……。 「まあ、そういうのもあってね。ボクとしては慶寿くんがいいなと思うんだよね」  そう言うと満兄さんは、座敷の床の間に飾られている鮮やかな朱色の布に包まれたものをそっと横目で見た。  今は天龍神社に預けられているそれは志龍の姫に代々伝わる守り刀。  嫁入りの時に持たせられるのだというが。 「私、いらないんだけど」  ボソリと思ったことを口にしてしまったら、ギロリと私を睨む満兄さん。 「だ、って。なんというか、私が変なのかもしれないんだけどね? あの刀、なんか変な感じがするの。重たいというか、あそこだけ空気が違うというか」 「え、ちょっと止めてよ、天音ちゃん!! そんな怖いものなら、本当にとっとと結婚して持ってってくれない?」  何も感じない結子さんは青ざめて、満兄さんは大きなため息をついた。
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