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「姫が帰るんなら、オレも帰るよ」
行こう? と微笑む慶寿に首を横に振って一人歩き始めるのに。
どこまでもついてくる気配は消えない。
「もうっ、ついてこないで!!」
「だって一人で泣かせておけないでしょ?」
「泣いてないし!」
「泣いてるよ、ずっとお腹の中に溜まってるのもゴロゴロ怒ってるし」
ね? と雲の中で光る雷を指さす。
「この時間だと姫の家、お手伝いさんがいるでしょ? お手伝いさんから姫のお父さんに連絡されると面倒じゃない?」
何が言いたいのだ? と慶寿に首を傾げれば。
「オレの家、今日誰もいないし。姫にね、見せたいものがあるんだ」
今更、慶寿と二人きりになったところで何か危ないことがあるわけではないだろう。
天候だけで父様に心配かけてるんだもん、もうこれ以上かけるのも――。
「姫の好きな、小豆屋の塩羊羹、昨日檀家さんに貰ってたなあ」
「た、食べた、」
言いかけてハッと口を塞ぐけど、時は既に遅し。
「じゃあ、行こう?」
繋ごうと伸ばされた慶寿の手を薙ぎ払い、少し前を歩き出す。
さっきまでの大粒の雨は霧雨に変わっていく。
「わっかりやす」
「うるさい!」
少しだけ心が軽くなる。
慶寿は私の扱い方を一番知っているからだ。
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