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雪解け、見上げた天の川
五年前の七月、私が小学校六年のときのことだ。
東町が、大雪に見舞われた。
三日三晩、飽きもせずにシンシンと降り積もる真夏の雪。
異常気象は、他ならぬ自分のせいだった。
母様が、死んだ。
元々、食も細く色白で健康的とは言えない母が体調を崩したのは数日前のこと。
その年は私の機嫌がひどく悪かったせいで、夏だというのに寒い日が続いていた。
母様が夏風邪をひいたのは、そのせいだと思う。
高熱が出て苦しむ母の横で、二歳年下の弟・息吹は片時も側を離れず、父も仕事を休んで付き添っていた。
私は何としてでも、母のために夏を取り戻そうと頑張った。
夏の陽ざしを浴びたなら、母様はきっと元気になるはず。
空を見上げて心を穏やかに。
母様と父様と息吹と四人で行った春のピクニックでの、楽しかったことだけを考えて。
あんなに集中して、必死に祈っていたのに――。
「母様、父様、お日様が出た! 蝉が鳴き始めたの、夏が来たの!」
これで母の病状も楽になる、と襖を開けた先で見えたのは。
母に縋り嗚咽をあげ泣きじゃくる弟。
その枕もとで正座をしたまま顔を覆うこともせずに泣いている父の姿だった。
……、なにが、起きたの?
「……、母様?」
つい1時間ほど前まで、ハァハァという荒い息をしていた母が、今はとても静かに眠っていた。
側に寄り、まだほんの少し温もりの残る母様の手を握る。
白く透き通るような手は、私の手を握り返してくれることはない。
瞑った目は二度と開くことなく、固く閉ざされていて私を映すことはない。
「天音」と私を呼ぶ優しい母様の声は、もう聞こえない。
「母様?」
目の前が真っ暗になった。
その瞬間、蝉の声は鳴りやみ、明るかったはずの空は不穏な色へと変わったのだった。
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