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「天音もいらっしゃい」
まだヨチヨチ歩きの息吹が、母の膝の上で甘えているのをじっと見つめていた。
「いらない、天音は赤ちゃんじゃないもの」
「赤ちゃんじゃなくても、お姉ちゃんでも、母様には甘えてもいいのよ」
ほら、いらっしゃいと私に手を伸ばす母におずおずと近寄ると。
「ん~、天音の髪の毛は柔らかくて綿菓子みたいないい匂い。息吹のとは、ちょっと違うわね」
息吹を膝から降ろした母は、ぎゅっと私を抱きしめて優しく髪を撫でてくれる。
心地いい、とっても気持ちがいい。
「まあ見て、天音。ほら、雨が上がったわよ」
窓の向こうを指さす母に習い、外を見つめたら。
さっきまで弟に嫉妬丸出しの私の心に反映していたグズグズベソベソな空は、雲の切れ間から陽ざしが降り注ぎ始める。
「天音はもっと母様に甘えてもいいの。父様にもよ? それから大切なお友達にだって心を開いてね? 辛い時は辛いんだって言わなきゃ。あなたは無理ばかりしちゃうから、母様は本当に心配よ」
でもね、母様。
天音が頑張らないとお空は涙を流しちゃうの。
泣きたくたって我慢しないと――。
我慢、しないと……。
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