竜殺しの夜➺D3 12/13まで毎日更新

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 一人旅をするサキに声をかけたナーガは、大天使かつ、サキが探す相手の叔母だと名乗った。人間界に行かなければ、サキの探し人には会えないのだと。  右も左も知らない人間界で、旅を続けるためには後援が必要。天使の白い翼の間で蒼いポニーテールを揺らすナーガに、行ってみるよう勧められたのが、玖堂家という富豪との面接だった。サキの故郷でもありそうな華やかな内装の部屋に来たので、気分が少し落ち着いてくれた。  扉を開けると、故郷にはない、大きな暗い色の机がまず見えた。人間界での仕事服というスーツ姿の長い黒髪の女性が、サキに静かに声をかけた。 「いらっしゃい、そちらにお座りになって。春日(かすが)家の方々から、お話は伺っていてよ」  長いソファとソファが向かい合っている。サキが座ると、間にあるテーブルにお茶が置かれた。当主の女性は机の方に居るままで、サキは遠いな、と思いながら玖堂氏を見つめる。  きっとこの屋敷での女王なので、仕事が沢山あって大変なのだ。机にある様々な書類を手に取る玖堂氏に、サキはただドキドキする眼差しを向ける。 「それで、あなた。人間界に留学なさりたいんですって?」 「あ、はい! あ、私、サキ・霧隠(きりがくれ)・スピリーズです」  名乗ることは大事なのに忘れていた。養父の姓だが、漢字の部分を口にした時、突然玖堂氏の目端が和らぎを見せた。 「霧隠……素敵なお名前ね。それにしても、そのお歳で一人旅を? まだ十五歳でしょう、あなた」 「はい! でも私、十五歳だけど十五歳じゃなくて、色々あって」 「色々?」  さあ来た、正念場だ。サキを橘診療所に送ってくれた、春日家の人達にもまだ話せていない。話すタイミングを失っただけだが、サキが人間界に行きたい想いを正直に伝えるために、避けては通れない話なのだ。 「あ、あの……私、生まれる前の記憶が、あるんです!」  自分はいったい、本当は何歳と言えば良いものだろう。細かなことは憶えていないが、見かけ通りに十五ではなく、養父曰く見かけの年齢も怪しいそうなのだ。  とにかくサキは、養父達と行動を別にする直前、生まれる前のことを思い出した。だから一人で旅に出たのだ。心配する養父達にはとても言えず、どうしよう、と思いながら一度故郷に帰ったところで、出会ったのが人間界の玖堂家行きを勧める天使ナーガだった。 ――玖堂サンに話してみなさい。きっとサキちゃんの力になってくれる。
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