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ナーガは元々、玖堂氏の守護天使で、橘診療所に行く前にサキを保護した春日家の縁者だという。春日家の人々は玖堂氏の援助で日本によく行くらしい。
だから、お願い。ぽかんとしている玖堂氏に、祈るように話を続けた。
「私、生まれる前に龍斗達に会ったんです! 私の家族もそこでは一緒で、だから私は、龍斗達に会って私の家族も探したいんです!」
春日龍斗。そういう名の青年が、この日本の何処かにいるはずだった。龍斗の両親は「日本で行方不明になった」と言って、会いたい、というサキを玖堂家に行けるように橘診療所に送ってくれた。
思えば龍斗の両親は、「会いたい」だけで、何故サキを保護してくれたのだろう。サキが生まれる前に会ったとはまだ話せておらず、龍斗自身、はたして覚えているかも怪しい。
それでもサキにはとても大事な、今一番探している深い絆。気付けば天涯孤独で養父に拾われたサキにとって、生まれる前で良いから親しかった人達に、どうしても再会したい。
そんな想いで必死に玖堂氏を見ると、玖堂氏は半分呆然としながら、頬杖をついてサキを見つめ返していた。
「……あの……」
「……ふう、困ったわ。そんな人ばかりで、もう」
「――え?」
今度はサキがアゼン、とした。玖堂氏は眉間にキレイにしわを寄せて、書類を置いて両手の上に顎を乗せた。
「やり直し物? それとも、逆方向の異世界転生かしら? どちらにしてもその理由では、物語が少々弱くて説得力がなくてよ」
ぽかん……サキには二の句が告げなかった。玖堂氏の日本語の意味がわからず、とりあえずサキの発した、突飛な言葉を疑われていないのはわかる。
「あの……信じてくれるんですか?」
「春日龍斗の行方探しは、大分前から請け負ってます。まさかそこに、前世のヒロインが現れるとは思わなかったけれど……味のつけようによって、もう少し面白くできるかもしれませんわね」
「前世……? 何か違うような……?」
とにかく、と、玖堂氏が妙に目をきらきらさせながら立ち上がった。顔自体は冷静なままであるのに、ソファに座るサキの斜め前まで来た時には、間違いなく熱を持った瞳ではっきりと告げていた。
「あなた。私の養女になりなさいな?」
何がどうなってそうなったのか、その後もサキにはわかることがなかった。
ただ玖堂氏にはちょうどこの時、サキと同じ歳の娘がいたこと。身寄りがないサキに思うところがあったのだろうことは、やがてじわじわと伝わっていく。
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