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Dear ナーガさん🌟
こんにちは、サキです! やっとお手紙、書けました!
今、私、橘診療所にいて、これから玖堂さんに会いにいきます。
ナーガさんが私を、ディアルスから連れ出してくれたおかげです。
ナナハには悪いけど、私も地球に行きたい。龍斗達に会いたい。
このお手紙、ここからなら届くって、院長先生が教えてくれました。
これからも見守ってて下さい、ナーガさん!
from サキ✿
ふう、と。処置室の長椅子で人間世界の不思議なペンで、念願の報告をサキは書き上げた。万年筆は故郷の王城で見たことがあったが、真っ白な紙という貴重品でもテンションが上がるのに、一本で四色もの字が書ける小さなボールペンはすっかり気に入ってしまった。
「もっと何か書きたいな……そうだ、ラスティにもいい加減連絡しなきゃ!」
現在のようにソロで旅を始める直前まで、一緒に行動していた仲間。養父もそうだが、しばらく音沙汰のないサキを心配しているだろう。
小さくても便利なボールペンが、色んな道具を造る兄貴分を思い出させた。これから来る緊張の時間を紛らわすように、サキは新しい紙を画板に敷いた。
Dear 烙人
烙人、みてみて! 私、ジパング語、こんなに書けるようになったよ!
烙人のジパング名も! 人間界に行きたいから凄くがんばったんだ、えへへ。
え? 何で人間界に行くんだ、って?
それは今度会った時に、沢山話すね! だからそれまで生きててね!
烙人の探し人も早く見つかるといいな。見つかったら私にも教えてね?
おとーさんにもよろしくね、私は元気だって。
話したいこと、色々あり過ぎるから、会える日を待ってるから!
from サキ
よし。ペンを置いて、深呼吸して、診療所で借りた日本の服が歪んでないか鏡の前で確かめる。初冬向きの白いハイネックに、短い赤のスカートが可愛い。兄貴分から一人立ちの直前にもらった、大事な飾りベルトがぴったりと合う。
サキを見つけて、この診療所に行くよう教えてくれた天使以外、今まで誰にも話せなかったことがある。それをこれから、よりによって初対面の人間に話しにいくのだ。
「まずは玖堂さんに、助けてもらえるかどうか。人間界にいられるかどうかはそれが重要だって、ナーガさんも言ってたし」
等身大の細い鏡の中で、もうすぐ十六とはいえ、見た目はただの娘が震える。
人間界。橘診療所という特異点を通じてやってきた星。
そうして人間でないサキが通されたのは、ある富豪の私室だった。
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