君がいた夏は遠い夢の中

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 無理矢理に取り付けられた約束から数日が経ち、夏祭りの当日になった。  それまでに彼女と出会うことはなく、あの日以降は姿を現していない。本当に言い逃げをされたまま、休みの日になり、朝起きた時は頭を痛めた。  彼女と話した通り、特に重要な予定は入っていない。誰かから誘われることもないので、入れる予定もない。  予定といえば本当に動画を見るくらいで、朝にきちんと起きたとしても、夕方までだらだらと、そうして過ごしている。  この日も普段の休みの日と変わらず、気がつけば夕方まで動画を見てしまった。ハッとして窓の外を見れば、橙色の世界が広がっていた。  やってしまった。そんな気持ちはない。この堕落した休日がくだらないが、とても充実している。  このまま何もせずに今日を終わりにしたいが、そうもいかないらしい。  窓から見える風景の一つに着物姿と彼女を見つけてしまった。  彼女は部屋の窓から俺が見ているのに気がついたのか、視線が合う。  小さな花の散らばった赤い浴衣の袖を片手で押さえて、控えめにこちらに手を振る姿を見て、そのまま外へ出る準備を始めた。  夏祭りといえば何を想像するだろうか。  パッと思い浮かぶのはヨーヨー釣りだった。  水の入った風船にくくりつけられた輪ゴムを紙製の紐の先に付いたフックで取るのが得意だった。  その一つで二、三個は取れる。それを彼女にあげて、遊ぶのが楽しかった。  あと他はお好み焼きに焼きそば。香ばしいソースの匂いにモチモチの麺が美味しかった。  屋台のお好み焼きはやたらと美味しく感じて、彼女と必ず食べていた。  いくつもある夏祭りの風景に、その何処にでも出てくるのは、間違いなく彼女の存在だった。  日向を避けるように家の影に隠れて、控えめにこちらへ手を振る彼女が、夏祭りといえば思い浮かべるモノだった。 「言い逃げしたな、カスミ」  髪の毛をお団子にして纏めた姿の彼女を睨む。 「いやー、言っちゃえば付き合ってくれるじゃん?」 「そうだとしても、嫌々従ってるんだよ」 「まあ、そう言わずに。毎年、一緒に夏祭りに行ってるでしょ?」 「……」  彼女はニコニコと楽しげに笑う。  彼女とは何かと夏祭りへ毎年通っている。それは今回みたいな言い逃げされて、付き合うこともあった。  それでも、毎年付き合っている理由は……。 「それに毎年楽しんでるんだから、ナツキを誘っても問題なーし」 「そんなでもない。さっさと行こう。さっさと帰ってくればいいし」 「そんな寂しいこと言わないでよー」  彼女を置いて歩き出す。日差しの当たった道は少し眩しい。  それに、まだ暑い空気が充満している。  きっと冷めることのない熱で、夜もうなされそうな暑さだ。
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