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『パンドラの箱』
「この箱を見張ってな。絶対に開けちゃあいけないよ」
魔法のお師様に言いつけられて、目の前にはとても古びた、曰くのありそうな木箱がある。
絶対に開けちゃあいけないと言われたら、開けたくなるのは、人でも魔族でも当たり前の性だ。ちょっとなら良いだろう。そう、ちょっとなら。
漆の剥げた蓋を開けた途端。
えも言われぬ芳醇な香りが漂ってくる。口の中が唾でいっぱいになる。
これはもしかして。そう、ちょっとなら……。
「この馬鹿弟子ーーーッ!!」
魔女は空の瓶を抱えて幸せそうに眠る弟子を力任せに蹴っ飛ばす。
友人に贈るはずだった薬酒の入った箱は開けられ、あらゆる希望が飛び出して、最後には絶望が残った。
288文字。
第82回Twitter300字SS様参加作品。お題『箱』。
なんというか、狂言『附子』のオマージュになりました。
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