『おくりばな』

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『おくりばな』

「花が好き」  隕石が堕ちて、荒れ果てた世界で、旧世界の古びた図鑑をめくりながら、車椅子の彼女は微笑んだ。 「ガーベラ、コスモス、カーネーション。色とりどりの花に埋もれて眠ったら、昔のこの星の夢を見られるかしら?」  そんな事は無理だ、幻想だよ。そうそっけなく返せば、「夢が無いのね」と彼女はぷっくり頬をふくらませる。その顔も可愛らしいなんて、口には出せなかった。  今、彼女は花に埋もれて眠っている。図鑑に載っていた折り方を、不器用な手で必死になぞって折った、色紙の花に囲まれた棺の中で。  もう車椅子に乗らなくて良いんだよ。思い切り、昔のこの大地の上を走り回れば良い。  冷えた手を取り、そっと口付けた。 293文字。 第85回Twitter300字SS様参加作品。お題『紙』。 表題のような言葉は無いとは思うのですが、これしか思いつきませんでした。
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