『手 掛ける』

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『手 掛ける』

 彼女は私が手掛けた中で最高の作品だった。  美しい顔。しなやかな肢体。鳥の囀りの如き声。主に忠実な心。そして。 「ご主人様、ご命令を」  その言葉に一言添えるだけで、彼女は私の邪魔者に手を掛ける。  嗚呼、楽しい。嬉しい。私が手を汚さずとも、目障りな連中が消えてゆく。私はこの国の支配者として君臨するのだ。逆らう者は片端から消してやる。 「ご主人様」  彼女が微笑む。そして。 「申し訳ございません」  ぎらり、光る刃が。  狂った研究者から流れ出す血が、戦闘人形の靴底をあかく染める。 「ご主人様」  心を持った故に罪悪感に苛まれた末、手に掛けた主人の亡骸を、人形は、涙を流しながら見下ろした。 「申し訳ございません」 291文字。 第87回Twitter300字SS様参加作品。お題『手』。 マッドサイエンティストの末路は大体こんなものです、というお話。
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