『残光』

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『残光』

 最後の敵を斬り捨てて、剣を放り出し。  ぐらり、身体が重力に引かれるまま、地面に倒れ込む。  土に生命が吸い込まれてゆく感覚は次第次第に遠ざかり、暗く狭まってゆく視界を、沈む直前の太陽が赤く灼く。  赤は生命の色、情熱の色、愛した女の色。  赤い髪を薄布のように翻し、情熱に満ちた舞を披露する彼女は、まさに生命力の象徴だった。 『あんたが死んでも、あたしは泣かないよ』  舞台の後、稼いだ金でエールを仰ぎながら、彼女はきゃらきゃら笑った。 『ずっと覚えてる。でも、それだけ』  それでいい。彼女の心のどこかに、自分の存在が残れば、それでいい。  うっすら微笑みながら閉じるまなうらで、日の光の名残が煌めいた。 288文字。 第79回Twitter300字SS様参加作品。お題『残る』。 朝夕シリーズを終えて、またフリーダムに書き散らしてゆきます。
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