四 悪魔の予言

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四 悪魔の予言

「はあ。ただいまです」 「お。無事に帰ったか、すまない。仕事中で」 庭師の部屋。レイアを待っていたはずのニッセ。食べていたアップルパイを慌てて隠した。そこにブーセンが現れた。 「レイア!どうして僕を呼んでくれなかったの……」 悲しげに抱きついてきたブーセン。レイア、申し訳なさそうに頭を撫でた。 「ごめんね。ルカさんが呼ぶなっていうもので」 「レイアは僕とあいつのどっちが好きなの?」 「まあ、ブーセンに決まっているでしょう?」 「これこれ!それよりも羊はどうしたんじゃ」 羊を盗んだのは城を追い出された会計係。そして羊は無事に王子の元に戻ったとレイアは報告した。 「羊は無事でしたし。会計係さんには兵を向かわせると言っていました」 「それは心強いの。さあ。レイアは休みなさい。疲れただろう」 「はい」 砂漠を行き来したレイア。疲れていた。そしてベッドに倒れ込んだ。 ……でもよかった。頼まれた仕事は達成できたし。 まどろむ中。思い出すのはルカの顔。それは怒った顔だった。 ……どうしていつも、怒っているのかな。皺だらけになっちゃうよ?ふふふ…… 彼の顔を思い出しながら。レイアはベッドで休んだ。 ◇◇◇ 王子の間。 「ルカ殿下。お召し替えを」 「爺。それはあとだ。それよりも羊は今度、しっかり管理するように伝えろ」 「はい」 「それに。王妃とアンはいかがした」 「はい。王妃様はですね」 王子と娘に毒を盛っていた王妃。自分のしたことにショックを受けて寝込んでいた。 「王宮医師の見立てで。祈り草のお茶を飲み精神的に安定しております」 「祈り草とは、皮肉なものだな」 王妃が否定していた薬草。これで彼女は回復している事実、ルカは悲しく笑った。 「……今はお部屋にて。刺繍をしておいでです。それに王妃様はこの国に来るまで絵が好きだったようで。医師の勧めで最近は絵を描いておいでです」 「気分転換で良いのではないか。そして、アンは?」 爺はお茶を出した。このカップはルカ専用だった。 「アン様は。お花が好きだとおっしゃいまして。今はお部屋に飾る花を、ご自分で庭で取ってくるようになりました」 「庭か。あんなに庭師の仕事をけなしておったのに」 ここで爺。ため息をついた。 「……ところでルカ殿下。ユリウス様はお元気ですか」 「ああ?元気だぞ」 「私がいる時は、ほとんど貴方様ですので。爺は心配しております」 ……お、やっと気がついたか。 爺を避けているユリウス。ルカは理由は言わなかった。 「本来はユリウス様に申し上げたいのですが、会えませんので。ルカ殿下に言伝をお願いしたく」 「なんだ、それは」 「隣国の姫と、婚約のことです」 「その件か」 ユリウスから聞いていたルカ。わかったと爺やを納得させ部屋から追い出した。彼はベッドに横になり目を伏せた。 ……婚約だとさ、ユリウス。 ……わかっているよ。 ……こればかりは、お前がやれよ。俺は知らないからな。 ……でも。レイアはどうするの?ルカはレイアが好きなんでしょう。 ルカ、深呼吸をした。 ……この体はお前のものだ。俺のことは気にするな。 ……でも。 ……とにかく。俺、しばらく休むわ? 一つの体、二つの心。これらの葛藤。この日以来、ルカは心の奥に引っ込み出てこなくなった。 ◇◇◇ そして後日。レイアは庭仕事をしていると兵士たちの噂を聞いた。 「俺も見た」 「ああ。女の幽霊だったな」 ……え。怖い。 この王宮は古い。村で育ったレイアにはちょっと怖かった。この噂、リラなら詳しいと思ったレイア、昼食の時に尋ねた。 「リラ先輩。夜に幽霊が出るそうですね」 「あら?よく知っているわね」 彼女はドヤ顔で答えた。 「真っ白い顔でね。夜の廊下を歩いているそうよ、そして、歌を歌っているそうよ」 「怖いですね」 「あら?貴方も怖いものがあるのね」 嬉しそうなリラ。ここでレイア、真顔を向いた。 「リラ先輩にはないんですか」 「失礼ね!あるに決まってるでしょう」 「これこれ!そんなに大きな声を出さないように。二人とも仕事だよ」 ニッセに促された二人。仕事に戻った。その夜。大人しく眠ったレイアであったが、翌朝、リラを見てびっくりした。 「どうしたんですか」 「何がよ」 「目の下のクマで、顔が悪いですよ」 「それをいうなら顔色が悪いでしょ!」 それにしてもあまりにも病的すぎのリラ。見かねたニッセ。リラを昼寝させた。 「ふう、どういうことなんじゃろうな」 「……ミスコンの時のように。ダイエットとかしてるんですかね」 この話の最中、ドアが開いた。リラがいた。 「おや。もう起きたのかね」 「……その腕は血に塗れ、その足は地獄の炎で燃える……」 「リラ先輩?」 様子がおかしいリラ。レイアが見るとその目は座っていた。 「愚かな人間どもよ……地が揺れ、天からは灰が降る……花は枯れ、水は汚れ………ははは、死ぬのだ。皆、死ぬのだ!」 「リラ君、しっかりしたまえ」 「はははは!死ぬのだ?、みんな、焼かれて、ギャハハハハ」 まるで発狂したかのようなリラ。レイア、じっと見つめていた。 「ニッセ庭長。何かに乗り移られています」 「なんじゃ?化け物か」 「とにかく。眠らせます。ごめん!」 レイア。リラの腹部をパンチした。リラ、痛みで気絶した。そして。枕元に薬草を焚き、彼女を寝かせた。 「どういうことだ」 「……まるで悪魔の予言でしたね」 リラの言葉とは思えない。レイアはブーセンを呼んだ。 「ブーセン?どこにいるの」 「出てこぬな。これは何かあるのやも知れぬ」 ニッセ庭長。ガルマに伝えると部屋を出て行った。レイアはリラの世話をしていた。 ……おかしい……何か、引っかかるわ。 それが何か説明できない。しかし、レイアには悪い予感がしていた。この時、レイア、王子に呼ばれた。 ◇◇◇ 「レイア。よくきてくれたね」 「王子。ご機嫌いかがですか」 王宮の間。ユリウスは不思議な出来事を説明した。 「アン姫も同じ様子なんだ。おなしなことを口走っている」 「リラ先輩もおかしいし、それにブーセンが出てこないんですよ」 話を聞いていたガルマ。古い文献を取り出した。 「実はですね。この城の記録に、同じような話がございます」 「読め!早く」 「は!それは長雨の夏の頃。アリストテレス王の統治の出来事で」 「待て」 必死に早口で読み上げるガルマ。ユリウス、止めた。 「僕が言っているのは早口という意味ではない。良いから。普通に読め」 「はい。そして、ある夜、第一王女が悪夢を見るようになり」 ガルマの読み上げた文献。そこには同じような出来事が記されていた。 「その後。火山が噴火したとのことです」 「まさか?」 「……そうかも知れません。現にブーセンが出てこないのは、逃げた可能性がありますね」 シーンとなった王座。ここでガルマが話を続けた。 「あ、ここに記述があります。この時、王子が祈祷をし、火山の溶岩を我が国から遠ざけたとあります」 「え。僕がやるの」 またもやシーンとなった王座。レイア、立ち上がった。 「あの。私は帰っていいですか」 「庭師のレイア。もしかして、貴様だけ、逃げるつもりではないか」 「……いや、その」 ……バレた?だって。私は王宮の人ではないし? この時。王子、すっとレイアを見下ろした。 「わかった。これから僕はその祈祷を行う!でもレイア、君にも付き合ってもらうよ」 「え。大臣さん、それっておかしいですよね?私、部外者ですし」 何故か沈黙の大臣。レイア、焦っていると王子がむくれた。 「だってさ?僕にできっこないでしょう?それに、ルカも出てくれないし」 「でも私は庭師ですよ?」 ユリウス。じっとガルマを見た。 「清き娘レイア:カサブランカ。溶岩がくれば皆死ぬ。諦めて命令に従え」 「でも、でも私は庭師ですよ」 「僕だってただの王子だよ!僕とルカを見殺しにする気なの?」 ……う。流石にそこまで言われたら。 うるうる涙目の王子。レイア、こうして何故か祈祷に付き合う羽目になった。 つづく
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