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六 石まつり
「おはよう。レイア」
「は、はい。リラ先輩おはようございます」
朝から上機嫌のリラ。ニッセはそっとレイアに尋ねた。
「レイアよ、リラ君は何を食ったんじゃ?」
「いえ。食べ物であんなになるのはよほどですよ」
ここでレイア。庭に行く支度をしているリラにお茶を勧めた。
「先輩、何か良いことがあったんですか」
「わかる?あのね。ガルマ隊長が。そのね、独身の兵を紹介してくれるっていうの!」
そう言ってリラは頬を染めて髪型を整えた。レイア、拳を握った。
……よくぞやった!ガルマ隊長!
「どうしたの?」
「なんでもありません。さあ、私も仕事しないと!」
レイアも身支度を済ませて庭に出た。良い天気だった。彼女は自分担当の庭に向かった。
途中の花壇。薔薇の花。ゴットランドは今、薔薇の世界。甘い香りにレイアはうっとりしながら庭の小道を進んでいた。
彼女が育てている祈り草。育っていたが、まだ小さい。しかし、今までの庭師ではここまで育たず枯れていた植物。レイアはこれをなんとか生育させていた。
王子の病を治すための祈り草。しかし、今の王子は健康になっていた。レイア、それでも庭師のプライドで、この薬草を生育させていた。
……どれどれ。うん。肥料が効いているわ。
順調に仕事をこなしていたレイア。するとこの庭になぜかたくさんの足音を感じた。
「何?え、兵が、どうして」
城の騎馬隊。ぞろぞろとこんな奥庭までやってきた。その一人がレイアに尋ねた。
「おい。娘。お前、この辺で石を見なかった」
「石って。どんな石ですか」
「俺たちもわからないんだ」
「私が知るわけないですよね」
弱りきった兵士たち。庭を捜索していた。やがてガルマの顔が見えた。
「ガルマ隊長。これはどういうことですか」
「奥庭の少女、レイア:カサブランカよ。そんなに怒るな」
レイアの怒りにオドオドのガルマ。兵の背後に隠れていた。レイア、睨んだ。
「だって。ここは大事な庭です」
「まあ。まあ、こっちに来い」
「なんですか一体」
引っ張ってきたガルマ。金髪の美髪を靡かせた。
「済まない!」
「だから、何?」
「王子の石がなくなってしまったのだ」
◇◇◇
「王子の石?全く話が見えてこないんですけど」
「……来週に。この城内で石まつりをすることになったのだ」
「ああ。それでですか」
石まつりとは。ゴットランドの男のスポーツである。起源は重い石を持ち上がることにより力を自慢するものであったが、事故が多発した。このため、古の王は異なる競技にした。
それは単純。芝生に描かれた遠くの円の中に石を投げれ入れるもの。この中心に一番近くに投げたものが優勝である。
この石。サイズはこの沿岸で獲れる魚のヒラメと同様と定めがある。ゴットランドの男達は皆、自分のマイストーンを持っていた。
「なんか最近、練習している人がいるので、そうでしたか」
「急きょ決まったのだ。しかしだな。王子のマイストーンが行方不明なのだ」
ガルマは頭を抱えてしまった。レイア、優しく尋ねた。
「もしかして。王子は試合が嫌で、ご自分で捨てたんじゃないですか」
「うわあ?言うなそれを」
耳を塞ぐガルマ。レイア、空を見上げた。
……やっぱり。
ガルマの苦悩。レイア、冷たく見ていた。ガルマ、自分を見下す娘を恐る恐る見つめた。
「なぜ、わかったのだ」
「ユリウス様は人と競うのがお嫌いですもの」
ガルマ、聖母を見るようにレイアにうなづいた。
「王子はお優しいので、一番になるとか。ガツガツ系はうんざりでしょうね」
「わかってくれるか?」
「ええ。私もそうですもの」
レイア、そっと雑草を抜いた。
「時が過ぎるのは皆同じ。人を差し置いて前に出ようとするなんて。卑しい人の考えです。私はそんな人は『お先にどうぞ』ですよ』
「おお、そうなのだ。しかしだな」
王が不在の今。石まつりに王子が参加せねば恥をかくとガルマは唸った。
「隣国の者が来るのです。王子が出ないわけには参りませぬ」
「こういう時はルカさんでしょ」
ガルマ。うんとうなづいた。
「我とてそう思いまする。しかし、臍を曲げて出て来ぬ。そこでまずは石を探そうと参った次第で」
……まあ、そうでしょうね。都合が悪いものは全部ルカさんだもの。
ルカが嫌になるのは当然。ガルマは打ちひしがれていた。ここに兵が報告に来た。
「隊長、例のブツはここにはないようです」
「そうか。くそ。一体どこに捨てたんだ」
「……あの、一応、探しておきますけど、本当にどんな石ですか」
ここで兵士。一歩前に出た。
「庭師のレイア。石のサイズはこんな感じな。色がどこか茶色で。我々はブレッドストーンと呼んでおったんだ」
「パンのような石。どこかで」
思い出せないレイア。彼らはここで庭の他の方を探しに行った。
……パン。パン、パンみたいな石。
庭仕事をしながら。レイア、考え込んでいた。ここにブーセンがやってきた。
「レイア。遊ぼ!」
「遊びたいけど。大変なのよ」
「どうしていつも大変なの?」
妖精はレイアの肩に乗った。彼女は説明した。
「パンみたいな石……でもさ。それが見つかってもさ、あの弱虫王子が試合に出るの?」
「そう言う話よ」
「でもさ。あいつさ。ひ弱でスプーンとフォークよりも重いものは持てないぜ」
「それほどでも」
「いいや。仮病を使った方が早いよ。みんなの迷惑だもん」
「聞き捨てならねえな」
「きゃあ?」
気がつくと。背後にはルカが立っていた。
◇◇◇
「どうしてここに?」
「いいだろう、別に。俺がどこにいても」
ルカ。爺やに礼儀作法をしつこく指導されて逃げてきたところだった。
……くそ。今日も可愛いし。
野良仕事のレイア。化粧もない素顔。肩にブーセンを乗せて微笑む小顔。ルカには眩しく、思わず目を伏せた。
……ねえ、ルカ、僕が出るよ。
……うるせ。引っ込んでろ。
……石を探すだけさ。彼女には手を出さないよ……
そして目を開けた。
「あら?王子ですか」
「本当、すごいね。よくわかったね」
「雰囲気が急に変わりますからね」
ユリウス。レイアに事情を話した。
「あのね。僕、この辺に捨てたんだ」
「やっぱりご自分で捨てたんですね」
……ここは祈り草の庭?あ、そうだ!
彼女が手を叩いた。そしてブーセンに向かった。
「そうよ!この花壇にあったわ。パンのような石が、ね?ブーセン」
「忘れた。僕の過去は忘却のかなた……」
「いいから!あの時、お前は会計係さんの部屋に。魔法でゴミを移動したじゃないの。あれよ」
あの時。確かに石があった。レイア、それが王子の石じゃないかと思った。
彼女はブーセンにお願いをした。
「あの時のゴミは結局どうなったの?」
「さあ。僕知らない」
「そんなこと言わないで。お願い、王子には石が必要なのよ」
妖精はぴょんと彼女から離れた。
「あのね。その石があってもさ。王子は試合で勝てるの?」
「う」
レイア、力説した。
「これは勝ち負けじゃないわ。王子は参加するのに意義があるのよ」
この時、ブーセンはじっと王子を見た。
「……いや、恥をかくだけだよ。自ら斬られに行くようなもんだよ」
「ううう?目の前が真っ暗に」
「まあ、王子、しっかりして?」
励ますレイア、ここにニッセがやってきた。レイアはニッセに尋ねた。
「あの時のゴミか。北の庭で確か、焼いたはずだな」
「では。灰の中に残っているかも。私、行ってみます」
「あ。それは僕の家来に行かせるよ」
ユリウスの声。ここで。レイア、首を横に振った。
「庭ですから。ここは庭師の私に任せてください。王子はそれよりも誰かの石を借りて練習を」
「うう」
「ブーセン。王子をお願い。サボらないように練習に付き合ってあげて」
王子とブーセンはえええ!と声を上げたが、迎えにきたガルマに引きづられて練習場へ消えていった。
◇◇◇
「僕が練習したって無駄だよ」
「いえいえ。王子はやればできる子です!宝くじも買わねばありませんし。石も投げずば当たりませぬ」
やってきた芝生の会場。目指すサークルがあった。さあさあとガルマに促された王子。渋々石を持たされた。そのそばにはブーゼンがいた。
「あのさ。あのさ、王子ってあそこまでその石を飛ばせるの?」
「無理……持ってるだけで限界が、あ」
「ぶない!?」
思わず手から落としてしまった石。このままでは王子の足に落ちる。ガルマ、素早くスライディングするようにこの石をその腹筋で受け止めた。
「大丈夫、ガルマ?!」
「……我は平気でございます……はあはあ」
「ごめんね!痛かったでしょう」
この様子。ブーセン、大笑いした。
「ギャハハ。ガルマの腹筋は鋼。王子のメンタルはガラス。ギャハハ!」
いたずら妖精は大笑いで二人の周囲を小躍りしていた。ガルマ、きと睨んだ。
「ではブーセンよ。お前がやってみせよ」
「僕?簡単だよ。それ!」
ブーセン。指をパチンと鳴らした。石は一瞬で消えた。
「なんと?」
「あ、みて!ドンピシャに中心にあるよ」
ユリウスの指す方向。そこに石が落ちていた。
「ひひひ!魔法を使えば簡単だよ」
ウッキウキで踊り出すブーセン。ガルマ。呆れた。
「それでは競技にならぬ……ん、王子、どうされました?」
「これだよ。これ」
「は?」
王子。ブーセンを抱き上げた。
「お前はいい子だね……賢くて可愛いよ」
「うん。僕、いい子」
「だからね?祭りの時さ、この力で僕を」
こそこそ話す王子。ガルマ、血相を変えた、
「なりませぬ。王子が魔法でズルをするなんて」
「うるさい!お前は僕が恥をかいて笑われてもいいのか」
「はい。それが真実ならば」
「薄情者!僕は嫌だ。ねえ、ブーゼン。今のをさ、僕の動きに合わせてさ、やってみようよ」
楽しくなったブーセン。ユリウスが石を投げる仕草に合わせて石を魔法で飛ばす練習をしていた。
「さ!行きますか」
レイア。現場の焼き後に向かった。
「……ここ、か」
大量のゴミを燃やした後。それは気の根っこや木の枝だったので、綺麗に灰になっていた。レイアは静かにこの灰の中から石を始めた。
金貨や兵たちの都合の悪いものが発見された。焼け跡から見つけたのは借金の催促状、女性の文字の手紙があった。
……他の人もここにいろんなものを捨ていてるんだわ。もう。
「これは。うわ?呪いの手紙だ。怖い」
女の恨みが残っていた手紙。レイアは恐る恐る石を探した。そして、見つけた。
「これだわ!でも、汚れてしまったわね」
王子が使うストーン。汚れたままにはできない。ここでレイア、水場に移動してこの石を洗い始めた。
ゴシゴシ磨いているとどんどん綺麗になってきた。
……王子だって。これを使えばきっと良い成績が残せるわよ。
ズルの練習をしていることを知らないレイア。王子のために冷たい水で石を洗っていた。
つづく
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