六 石まつり

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「王子!石を発見しましたよ」 「あ、ああ。レイア、ありがとう」 「え。王子があそこまで飛ばしたんですか?すごいじゃないですか」 練習中の王子。的の中心にピッタリ石を飛ばしていた。すばらしい腕前。レイア、感動で拍手をした。 「さすが!王子は違いますね」 「まあね」 「ブーセン。王子はすごいでしょう?決してひ弱ではないわ」 「いや、ひ弱だよ」 「おっと?ブーセン。向こうでガルマからおやつをもらっておいで」 妖精を排除したユリウス。投げたふりをして疲れていた彼。肩など回していた。それでもレイアにはカッコよく微笑んでみせた。 「どう?僕だってやればできる子なんだよ」 「はい!あのレベルだと。優勝じゃないですか?楽しみですね」 ……ルカさんじゃないと無理だと思っていたけど。さすが王子だわ。 ここでガルマ、やってきた。 「おお。その石だ。どこにあったのだ」 「例のゴミ焼き場の跡です。きれいに洗いましたので、はいどうぞ」 重い石。レイア、はいと片手でくれた。ガルマ、受け取った。 「ささ。王子。そろそろ帰ってお昼寝ですぞ」 「そうだね。じゃあね。レイア」 「はい!お疲れ様でした」 ……よかった。石も返せたし。 王子の頼もしい背中。レイア、安心してみていた。 ◇◇◇ そして。石まつりの日がやってきた。庭師達は会場になる城内の広場の芝生の手入れに忙しかった。 審判は兵が担当。庭師達は食事の用意などの手伝いであった。 「ねえ。レイア!さっきの人かっこよくない?」 「リラ先輩。ガルマ隊長に彼を紹介してもらうんじゃなかったんですか」 城以外からも。町から腕自慢の男がやってきた会場は賑わっていた。リラは最高に興奮中。レイアは実に白けた気分だった。庭師の二人は会場にて飲み物を配るなど、会場世話係になっていた。 「ねえ。レイア。あの若い騎士達。すごくカッコいいんだけど」 「先輩。そのカゴを持ってくださいよ」 「一緒に行ってさ。挨拶しようよ」 「御免ですね」 「もう!」 リラの話を無視したレイア。うるさいこの場を離れようとした。 「姉さん」 ……え、この声は。 「……まあ、マイル、そこにいるのはマイルなの」 騎士の中。一際、美しい美青年。レイアにはそこだけに光が当たっているように見えた。それは弟のマイルだった。彼は人をかき分けて姉に向かってきた。 「姉さん!会いたかった」 「おお。マイル。私の愛しい人」 二人は人目も憚らず抱き合った。マイルは姉の亜麻色の髪に顔を埋めていた。 「会いたかった……いつも姉さんのことばかり考えていたんだ」 「私もよ。お前のことを祈りながら、毎晩寝ているのよ」 頬寄せる愛の世界の二人。ここで騎士団長がやっと声をかけた。 「二人とも。そろそろ良いですかな?目のやり場に困ります」 「え?あ!すいません」 「姉さん。こちらは僕らの騎士団長だよ」 レイア、丁寧にお辞儀をした。 「弟がお世話になっております」 「いやいや。こちらこそ。優秀な弟さんを預からせていただいております」 気がつけば。レイアよりも背が大きくなっていたマイル。微笑んだ。レイアもうなづきながら手を握った。 「そうですか?まだ子供なので心配で」 「とんでもないです。彼は大変優秀で。今回は士官学校の選手として、新人ながら大抜擢ですよ」 「……姉さん。僕も参加するんだ。優勝して贅沢させてあげるね」 見つめる弟。レイア、うるうるの目で返した。 「いいのよ。姉さんはお前が幸せなら。いつ死んでもいいの」 「姉さん。それは僕も同じだよ」 「マイル」 「姉さん」 ひしと抱き合う二人。美麗な少年マイルと庭師の姉のレイア。髪色の美しい二人の姉弟愛。周囲の者はこれに見惚れていた。 「おほん!ああ、士官学校の教官殿。久しぶりです」 「ああ。ガルマ隊長。本日は生徒がお世話になります」 「それは良い。して抱き合うレイア:カサブランカ?こちらの有能そうな青年は誰なのだ」 レイア、弟から離れた。 「ガルマ隊長。こちらは私の弟で、マイル:カサブランカです」 「初めまして。姉がお世話をしております」 所作の美しいマイル。びしと挨拶を決めた。ガルマ、目を細めた。 「あ?ああ、確かに世話になっておる。頼もしい姉君だ」 「恐れ入ります」 「庭師であるがな。甘草アイスクリームを一緒に売ったりしてな?我はその剛腕に頼りっぱなしであるぞ」 「困りますね」 「こら!マイル。ガルマ隊長は近衛隊長なのよ?」 ガルマに対しの態度。レイア、弟マイルを見つめた。 「遠慮しないでもっと強く言ってちょうだい!庭師以外の仕事ばかりで姉さん、頭にきているんだから」 「マジで?」 「ははは。いやいや?カサブランカ姉弟は正直者だ。将来が楽しみであるな」 ガルマ。周囲がハラハラしている空気。自分でコンパクトに話をまとめた。士官学校の教官も愛想笑いで協力し、場をクリアにさせた。 「それにしても、マイルが来るって知っていたら。美味しいケーキを焼いておくだったわ」 マイル。微笑んだ。 「いいんだ、こうして会えただけで」 「マイル」 「姉さん……」 またしても見つめ合う姉と弟。愛の抱擁の予感、ガルマ、先に間に入った。 「それはもう勘弁してくれ?さあ、マイルとやら。試合に励んでまいれ」 ガルマに邪魔されたマイル。士官学校の仲間と颯爽と選手の集まりに消えていった。レイアも仕事場に戻った。 「ねえ。あの男の子は何者なの」 「私の弟です。あ、リラ先輩、あっちの殿方が先輩を見ていますよ」 「嘘?どこ」 こうして誤魔化したレイア。石まつりなど何も興味なかったが、マイルの登場で試合を観ようと思っていた。 そして。晴天の正午。試合が始まった。 ◇◇◇ 今年はゴットランドで開催の石まつり。隣国の腕自慢も参加していた。くじ引きが始まった。 この競技。芝生の上に描かれたサークルの中の中心に石を投げ入れるものである。中心は棒が立っている。順番に遠くから投げて競うものである。 この時。初発に投げた者は、置いた石で後発の妨げができる利点がある。しかし、後発の者は初発の石を自らぶつけて追い出すことができる。 このため。初発に投げる時は平石でその場を動かぬもの。後発の石は、よその石にアタックするため、丸い形を帯びたもの。こうして試合の進行により選手は石を使い分けるのだった。 やがて決まった対戦相手。まずは七人でサークルに向かって石を投げた。この試合を王子は見ていた。 「ねえ。ガルマ。さっきレイアと仲良くしていたのは誰なの」 「王子。あれは弟だそうで」 「弟?立派な青年だね」 士官学校の仲間と笑みを浮かべている青年。年少ながら選ばれた彼、優秀に違いない。ユリウス、遠巻きで見ていた。 やがて試合が進み、ユリウスも第三試合に登場した。 「行くぞ。えい!」 投げた石。ブーンと飛び、中心に落ちた。そして、王子は1番の成績で予選を通過した。 「どうだ」 「さすがでございます。が」 「なんだ?」 ガルマの声、ユリウス、眉を顰めた。 「隣国の王子で、従兄弟のバルバロッサ王子と。あのマイル:カサブランカも予選通過です。かなりのやり手です」 「バルバロッサとマイル:カサブランカ……」 チラと見るとレイアの笑顔。それは弟に捧げられていた。ユリウス。悔しい唇を噛んでいた。 ◇◇◇ ……いいぞ!いいぞ!マイル!…… 「ねえ、ちょっとあんた」 「はい?」 呼び止められたレイア。振り向くときれいなお姉さん達がいた。 「あなた?庭師に試験で不合格のはずなのに、どうしてここにいるのよ」 「あ!あの試験の時の勘違いお姉さん軍団?」 「何が勘違い軍団よ!」 あの時の庭師の試験。王子に近づけると勘違いをして応募してきた娘達。庭師の衣装のレイアを取り込んだ。彼女達はこの日も美しい衣装を着ていた。 「もしかして。あなた庭師なの?」 「どういうことよ!私たちが落ちて、あなたなんかが合格なんて」 「おかしいわよ」 散々文句の女達。レイア、彼女達の怒りを受けていた。レイア、穏やかに説明をした。 「あのですね。私、試験は落ちたんですが、いわゆる補欠みたいなもので」 「言い訳なんか聞きたくないわ?おおいやだ、性悪女で」 「卑怯者!貧乏人が悪知恵で入るなんて。許せないわ」 「そこまで言わなくても」 あまりに怒る娘達にレイアもタジタジになった。ここで。誰かがレイアの肩を抱いた。 「おい!性悪はお前達だろう?寄ってたかって一人の娘に」 「王子様?」 「わ、私たちはそんなつもりじゃ」 いきなりやってきた王子。レイアの腕を取り娘達を睨んだ。 「……ここは王宮だ。そして今は石まつり。こんな騒ぎはごめんだ。さっさと応援にでもゆけ!ほら、駆け足!」 娘達は謝りながら退散していった。レイア、彼にホッとした顔を見せた。 「助かった。ありがとうございます、ルカさん」 「別に。お前も遠慮せずにはっきり言ってやればいいんだよ」 「……でも。補欠で入ったのは事実ですもの」 素直なレイア。にこと笑った。 「それにしても。競技は?もしかして嫌で逃げてきたとか?」 「よくわかったな?そうだよ。ユリウスはもう肩が痛いって騒いでいるんだ」 「あら?薬草の湿布を貼りましょうか」 どこか笑顔のレイア。ルカ、憎らしかった。 ……くそ、どうしてこんなに苛立つのだ。 わかっていること。それは美麗なマイルのこと。彼女の実の弟だとわかっているのに。ルカ。無性に腹が立っていた。 「ルカさん。どっちの肩ですか」 「あのな。レイア、お前さ。決勝で俺と弟が出たら、どっちを応援するんだよ」 「もちろん弟ですよ。だって王子には親衛隊がいるじゃないですか」 「ふん!」 機嫌が悪くなったルカ。ここで兵士が迎えにきた。 「王子、お時間です」 「ほら。ルカさん、行かないと」 ルカ。レイアの手をぎゅうと握った。 「痛い?」 「俺を応援しろよ?!じゃないと裸になって踊ってやるぞ」 「見ものですね」 「そう?じゃ後で見せてやるよ」 二人の悪ノリの冗談。若い兵士が恥ずかしそうにしていた。 「お、王子。あの、その裸はちょっと」 「みろ。お前のせいであいつが困っている」 「わかったので早く行って」 レイアに背を押されたルカ。微笑んで王族のテントの方へ向かっていった。レイア、その背に手を振っていた。 その後、決勝の選手が選ばれ、王子、マイル、民間の選手。そして隣国のバルバロッサになった。お昼休みの後の試合。レイア、マイルに声をかけようと士官学校のテントに顔を出した。 「あの。マイルは?」 「あ?よかった、ちょうど呼びに行くところだったんです」 士官学校の仲間。額の汗を拭いた。 「弟のマイル君が。何者かに襲われて奥のテントで休んでいまして」 「どいて!」 レイア。テントの中に入っていった。 つづく
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