六 石まつり

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「マイル!」 「姉さん……」 「これは……どう言うことなの?」 額に包帯をまいた弟は横たわっていた。レイア、寄り添いながら教官に尋ねた。 「どうしてこんなことに?」 「……彼は何者かに襲われたんです」 「そんなことは見ればわかります!誰がこんなひどい事を」 すると。マイルの仲間が決まり悪そうに話した。 「俺は一緒にいたんですけど。たぶん、マイルが優勝候補だから。何者かが試合に出られないように、後ろから殴ったみたいです」 「姉君。実はこの競技、賭け事の対象になっておるのです」 「なんて事なの……」 マイルは予想外の選手。多くの人はマイルに賭けていない。よって賭博関係者に狙われたのだろうと教官は悔しそうに語った。 「すみませぬ。彼の警護をすべきでした」 「過ぎた事は仕方ないです。それよりも、マイルは大丈夫なの」 「うん。血は止まったし。僕もうっかりしていたんだ」 悔しそうなマイル。犯人は見てないと姉を見つめた。 「教官殿。自分は試合に出ます」 「だめよ?そんな傷で」 ここで教官。怖い顔になった。 「姉君殿はお静かに。良いか、皆の者!我々は騎士であるぞ」 教官はテント内の学生兵士を見つめた。 「貴殿らはいつかは王族を守る騎士となる身。これからも任務で危険な目に遭うだろう。しかし決して、悪に屈してはならぬ」 ここで。マイルの同級生が向かった。 「では教官。マイルに試合に出ろというのですか」 「……試合に出れば、犯人は驚くであろうし。賭博の裏幕に一泡吹かせることができる」 「ですが!マイルは無理です?危険すぎます」 「だろうな。だから……使おうじゃないか」 そう言って。教官はレイアを見つめた。 「ん?私?」 見つめる教官。レイアには返事をしなかった。 「……皆の者!人払いをせよ!これより作戦を決行する!士官学校の名誉においてならなずや犯人を確保すべし!」 おう!と掛け声のテントの中。レイアとマイルだけは呆気に取られていた。 ◇◇◇ 「バル様。お食事はもうよろしいのですか」 「ああ。満腹では動けのぬでな」 このテントに急に花の香りがした。 「まあ。バルバロッサ ?立派になりましたこと」 「叔母さま?こちらから挨拶に参りますのに」 王妃は嬉しそうにたくましい甥を見つめた。赤毛の彼。長髪を結び美麗な面。どこか冷たく、そして逞しく。ユリウスは微笑みの天使の優しい王子。反して彼はクールな面差し。二人の王子は対照的であった。 「良いのです。それよりも姉上は元気ですか」 「はい。最近は花ばかり飾っておりまする」 「まあ?アンと同じだわ」 王妃はバルバロッサの母親の妹。血族の二人は和やかに話をしていた。 「そういえば、ユリウスは元気そうですね」 「え、ええ」 自分のせいで不健康だったユリウス。しかし、今の王妃は己の心の病に気が付き、自分の道を探しているところだった。バルバロッサ、笑顔を見せた。 「妹のエリザベスに様子を見てくるように言われておりますので」 「綺麗になったでしょうね。お年頃のはずですもの」 エリザベスはユリウスの婚約者。王妃はどこか遠くを見ていた。 「あの子に会ったのはこんな小さい頃で」 「そうですか?背は伸びて、うちの母上よりもありますよ」 「まあ?会いたいわ」 しみじみ話す王妃。ここで彼の側近が耳打ちに来た。 「左様か」 「はい。それに出たところで大したことはできぬと」 「あい、わかった」 計画の進行。彼は素である冷たい顔になった。これに王妃、反応した。 「バルバロッサ?どうしたのですか」 王妃の笑顔。彼はパッと笑みを見せた。 「なんでもありませぬ。では、試合の後、王宮に挨拶に参ります」 王妃をテント外まで送った彼。そっと眩しい空に目を細めた。 ……致し方ない。これも国のためだ。 どんな手を使っても優勝しないとならないバルバロッサ。息を吐いて試合に臨んだ。 決勝戦。予選を勝ち上がった者たちで勝負。王子、マイル、バルバロッサ。そして民間選手である町一番の腕利き爺で競うことになった。 先攻後攻のハンデを鑑み。二回戦い、それで競うことになった。試合前、選手は支度をしていた。 「ねえ?マイル。君、試合に出て大丈夫なの」 「何がですか」 ガルマからマイルの事件を聞いていた王子。平気な顔してこの場にいるマイルにびっくりした。 「君。テントで血だらけだってガルマが言っていたよ」 「……夢でも見たんじゃないですかね」 マイルはそう言ってこそこそ背を向けた。するとバルバロッサが挨拶に来た。 「ユリウス!久しぶりだな」 「バルこそ。低い声で誰かと思ったよ」 「ふ。お前は変わらないな」 従兄弟同士。子供の頃からの仲良しの二人。しかしバルバロッサはどこか影があった。ここに唯一町民参加の爺さんが声をかけてきた。 「あのですな。わしが勝っても怒らんでくだされや」 「もちろんだよ。ね。バル?」 「その心配には及ばない。優勝するのは私だから」 「王子様の自信は大したものじゃ、して?あの若造は……いた!」 爺はマイルにも挨拶した。 「よろしくな」 「こちらこそ……あの、すいません、これって、この線からあの円の中に投げ入れればいいんですよね?」 「あ。ああ、そうじゃよ」 今更ルールを確認するマイル。爺は首を捻ったが、自分の投石に集中力を高めていた。その頃、本人は気が気じゃなかった。 ……やったことなんかないよ?石投げなんて。 亜麻色の髪型を工夫しマイルのフリをしたレイア。決勝戦の晴舞台に立っていた。服はマイルの物。背はそんなに違わない。それにマイルを知る士官学校の仲間は全てグル。今は、怪我したはずのマイルが元気一杯に登場したことに驚く犯人を捕らえようという作戦のためにこの場にいた。 ……とほほ。ブーセンを頼るとバレるし。 サークルに石を投げるのはできそう。しかし、本当にやったことはない。しかし、一回戦はマイルが一番手になってしまった。 ……うう。みんな投げた後が良かったのに。 ここで司会者は張り切り。決勝戦が始まった。 「マイル!さあ、思い切って行けよ」 「お手並み拝見だ」 「はい。ではお先にです……は!」 ユリウスの励まし。バルバロッサの光る目。そして爺さんが見守る中、レイアはヤケクソ気味に平たい石を投げた。 レイアの石は中心の近く。手前に落ちた。 「ほお?やるな?」 「ねえ、バル見た?芝生に刺さったね」 「若いくせに恐ろしや……我々にとっては壁になりますな」 こっちにくるな!と言わんばかりに手を広げるかのように土に刺さった石。結局、これが壁になった。渾身の力投の爺さん。これが邪魔で中心に行けず、シリウスとバルバロッサは中心から同距離になった。 一番中心に近かったのはマイルであるレイアの石。爺さんは肩を壊してしまった。名誉の負傷で棄権。こうして三人で競うことになった。 ……士官学校の生徒は分かっていたが、まさかユリウスがここまでやるとはな。 弱虫、ひ弱のユリウス。彼がここまで勝ち残るとはバルバロッサは思っていなかった。隣国の時期王。期待を背負っている彼は国の負債があった。これを今回の賭博で返そうと本気になっていた。 王子の威厳と借金返済。恐ろしいほどの重圧で苦しむ中。笑顔耐えない苦労知らず、浮世離れの従兄弟のユリウスが羨ましかった。 「ねえ、バル。バルはどの石を使うの」 「そうだな」 「マイルがすごいからさ……普通じゃ勝てない、あ?さっきの爺さんって棄権したからさ。この石はもう使わないと思わない?」 ……なんと無邪気なことよ。 この手が汚れているバルバロッサ。純粋無垢なユリウスが眩しかった。 「そうだな。っていうか、あの爺さんは怪我で持てぬからな」 「でしょう?それに僕らは王子だもん。勝手が許されるはず、あ?やば、これ重すぎ?あ」 「ぶない!?ふふ。お前何をやっているんだよ?」 彼ごと抱きしめた赤毛のバルバロッサ。腕の中のユリウスは微笑んでいた。 「ごめんごめん!ふう、あの爺さんってすごいんだね?」 キラキラのユリウス。しかし、バルバロッサは心殺して勝たねばならなかった。 ……俺とて。このように穏やかに過ごせたら。 従兄弟を羨んでも仕方がない。彼は作戦を知る自国の部下と目が合った。 「……さあ。俺たちはライバルだ。試合だ」 「うん!マイルを倒そうね」 そして。二回戦が始まった。 一番手ユリウス。中心に石が落ちた。二番手のマイル。この石にぶつけて弾き出し、自分の石を中心に置いた。最終手のバルバロッサの石。これは、マイルの石を追い出した。 これではマイルとバルバロッサが同成績。最後の試合、ユリウスが退き二人が対決となった。 「お前。なかなかやるな」 「……そうでもないです」 始まる前の石磨き。この時、バルバロッサ、レイアの細い手首を掴んだ。 「貴様」 「きゃ?」 「女のような細腕……細腰。貴様、本当に士官学校の騎士か」 「随分。僕のこと詳しいですね」 見つめる目。しっとりと濡れた瞳。バルバロッサ、ドッキリした。 「もしかして。僕を襲った人物をご存知ですか」 「な、なんのことだ」 「目を逸らした……目は心の窓っていうのは本当なんですね」 バルバロッサを揺さぶるレイア。彼はその言動と女のような甘い雰囲気に動揺した。 「そ、そんなことはない」 「また目を逸らした?……正直なんですね。嘘が言えないなんて」 「うるさい!」 バルバロッサ。手を解いた。レイア、静かに語った。 「試合で決着つけましょう。お互いに堂々と」 「望むところだ」 そして試合になった。本当にこれで最後。バルバロッサが先攻。彼の投げた石は中心に落ちた。しかも平たく重い石だった。 「ねえ、マイルはどうする気だろうね?どうやってバルの石を退けるの?」 「ユリウス。それは無理だ。その男には俺の石はどかすことはできぬ」 マイルの非力を侮っているバルバロッサ。彼女は考えていた。 ……中心には棒がある。この王子の石はそのすぐそば。 だから。あの石よりも棒のそばに置かないと勝てない。この時、彼女はマイルの石をやめた。そしてユリウスの石を借りた。 「いいけど。それはめっちゃ軽いよ? 「いいんですこれで。では、行きます」 レイア。綺麗なフォームで横投げをした。軽い石はさっと飛んでいった。 「うわ……まじで」 「なんと?棒に刺さったか?」 驚くユリウスとバルバロッサ。レイアは疲れてへたり込んでいた。 レイアの石は棒に刺さっている。しかも地に着いていた。 『優勝。マイル:カサブランカ!』 司会者の声。会場はワッと歓喜に溢れた。 「すごい?ねえ、バル」 「離せユリウス!……これはおかしい!棒を破壊したので失格ではないか」 審判に物を言うバルバロッサ。周囲の人々はシーンとなっていた。 「なあ?皆の者はどうだ?これはおかしいであろう」 ここで決勝で敗れた老人が出てきた。 「いや。これほど中心に入ってる石がかつて合っただろうか?のう、ユリウス王子。あなたはどう思いますか」 「僕はただすごいと思うだけさ。ねえ、バル。諦めなよ、ね?」 「くそ……!?」 バルバロッサ。ユリウスの優しさを突き放しこの場を離れた。 つづく
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