誉れ

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「ささ、サルよ。 この薬丸を一口に頬張るのだ」 サルの洗脳が既に解けていることを知らぬお館様は、笑顔でサルに近寄り、サルの手に薬丸を乗せた。 サルはその薬丸を飲み込むふりをして、土間に落とした。 もちろんワザとである。 そして、薬丸を拾うふりして、脚絆に隠していた匕首を取り出し、一思いに親方様の喉元に突き立てた。 「お館様、覚悟!」 「サルよ…、何故…」 「お館様…、お館様は変わられてしまいました。 今のお館様では、民はついてまいりませぬ。 お館様が憎い、お館様を変えてしまった、富と名誉が憎い。 かくなる上は、お館様を弑したあと、それがしも後を追う所存…」 サルの話を黙って聞きていたお館様は、喉に空いた穴から空気を漏らしながら、苦しそうに語り始めた。 「そうか…、お主はワシが憎いか…。 じゃが、後を追うのはならぬ。 サルよ…。お前は生きよ。生きて、この国の行く末を見届けるのじゃ…。 ワシはもう終わりじゃ。 じゃがな。 ワシの蛮行を止めてくれたのが、サルで良かったと思うておる。 サルよ…、世話になったな…」 「お館様…」 「もうたった今からワシはお館様ではない…。 そうじゃ。最後は昔のように呼んでくれ。 桃太郎、とな…」 「桃太郎…」 サルが優しく話しかけるかのようにその名を呟くと、にっこり笑った桃太郎は、ゆっくりと目を閉じ、その生涯を閉じた。 サルは泣いた。 この手でお館様を屠ってしまったことに。 そしてサルは激怒した。 大好きだった桃太郎を変えてしまった、この世界に。 了
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