一.

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一.

田畑に囲まれた一軒家、農具やトラクターが乱雑に並ぶ広いガレージの一角に、小型のプレハブ倉庫が置かれていた。 倉庫の脇には発電機が駆動音を響かせ、発電機から伸びるケーブルの先、倉庫の中からは、何やら人の話し声が()れ聞こえている。 と、突然、その話し声に替わって雷鳴のような強烈な破裂音が(とどろ)き、 「ぅやぁっ!!」 という女子の絶叫が上がると同時に、安全装置が働いて発電機は停止した。 そしてがらがらと倉庫の扉が開くと、 「あははは、耳痛ーい!」 「やるなと言っとるだろうが!」 青いワンピース姿の少女と、歳の割には洒落(しゃれ)た装いの小柄な老人が現れ、耳を押さえながら大声で話し始める。 「ごめんごめん!やっぱりちょっと『セントエルモの火』だけじゃ地味っていうかさぁ!科学実験っていうのは、なんだかんだでどーんっと派手に爆発とかして欲しいんだよねぇ!」 「古い漫画の見過ぎだ!ただでさえ愛美(マナミ)が『ジャマ』だの『火事になる』だのやかましいっちゅうに!」 「母さんは科学に理解が無いよね!」 発電機の側面の(ふた)を外して小さなガラス管を取り出しながら、少女が笑う。 「やれやれ、またヒューズが飛んだな。あれは雷発生装置じゃないと何度も言っとるだろうが。ったく、雛維(ヒナイ)にはまだこの渋い浪漫(ロマン)はわからんか。単純な電気的物理現象に『セントエルモの火』なんていう文学的な名前を付けた、先人の詩的センスもな」 少女からガラス管を受け取り、目を細め中の細い電線が焼き切れているのを確かめると、老人はため息をついてガレージの外に出た。 「『セントエルモの火』なんて、上の強電場に引き寄せられて微妙に絶縁破壊して、微妙に棒とかの先っちょが光ってるだけじゃん。(じい)ちゃんは何年もずっとこればっかり、何がそんなに面白いかねぇ」 雛維(ヒナイ)は、むしろため息をつくのは自分の方、といった顔で大げさに息をつきながら、老人の後を追ってガレージの外に出ると、老人と並んで木陰に置かれたガーデニングチェアに腰掛けた。
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