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子猫さん
子猫さん
あなたは今 幸せですか?
子猫さん
子猫さん
あなたは今 ひとつのルビィに何を映していますか?
私のふたつの瞳を ルビィと言って欲っしたあなた
私の瞳と あなたの日記は等価でした
だけど渡せたのは ひとつだけ
きっと その意味を知っていたなら
私は あなたに何もあげなかった……
出会いも
瞳も
優しさも
命と等価じゃないんです
私は目の見えない子猫さんに
確かに手を差し伸べた
だけど それは見返りが欲しかったからじゃない
杖を失くして あなたが転んでいたからだ
「大丈夫ですか?」
「はい……」
差し伸べた手に おずおずと手を伸ばし
ゆっくりと立ち上がった 子猫さん
「あなたの病室はどこですか?」
「え、えと……中庭の西……」
私は私の出来ることをしようと思った
それは心臓の手術を断り続け
残り少ない命だと思ったから
生きている人に
優しくあるべきだと思ったから
だけど それをキッカケに
子猫さんは 私に恋をした
日記は出会った日から始まり
私の心臓になる前日まで続いた
私は子猫さんが残してくれた日記を
初めから読むことにした
◇1ページ目
今日 優しくしてもらった
モフモフな手が とてもぬくぬくだった
僕より少し大きな手
上からふりそそいだ声
年上の兎さんだと思う
どんな顔をしているんだろう?
触りたかった……
可愛い声だった
僕を病室まで連れていってくれた
きっと これは運命だ
(この出会いがなければ子猫さんは死ななかった)
(この出会いがあったから、私は今を生きている)
「ごめん……。ごめんなさい、子猫さん」
視界が涙で覆われてゆき見えなくなる
(あなたがくれた命だから)
(絶対、無駄にしない……)
◇2ページ目
兎さんの病室はどこだろう?
昨日 杖を失くしたところまで行ったけど
兄に見つかって
先生に戻るように言われたから見つけられなかった
「探してくれたんですね……。1階じゃなくて、5階だったんですよ」
◇3ページ目
見つからない……
夢でも見たのかな?
それとも僕の願望だったのかな?
先生に聞いても 小さく笑うばかりだ
◇4ページ目
また杖を盗まれた
アイツら嫌いだ……
杖がないと探すのがツライ
でも 諦めたくない……!
(子猫さんはイジメられていたのだろうか?)
それで杖を失くしたんだ
(酷いことをする……)
◇5ページ目
杖がベッドの上にあった
兎さんだと思った
嬉しかった!
兄に聞いたら 先生が新しいのをくれただけだった
いっそ またアイツらが盗んでくれないだろうか?
次こそ 兎さんが届けてくれたらいいのに……
◇6ページ目
中庭を通りかかった時に兎さんの声がした気がした
だけど……追いかける途中 誰かにぶつかった
アイツらだった
屋上に連れていかれて
何度も殴られた
気づけばベッドの上にいた
頭の中から 何か大事な記憶が消えている気がした
◇7ページ目
兄に病室を出るなと言われた
それから数日 兄が病室にいた
頭の中が真っ白で 何も考えられない
モヤモヤする
◇8ページ目
兄が 先生に呼ばれ どこかに行った
チャンスだと思ったけど
なんのチャンスか すぐに忘れた
何も考えられない
戻ってきた兄が 僕を抱きしめながら泣いていた
「好きにするといい……」
「?」
「お前は自由だよ」
◇9ページ目
何のことかさっぱりわからなかった
何もわからないまま 数日が過ぎた
そして 耳をすませていた僕に
聞いてはいけない声がした
僕の脳は アイツらに殴られた所為で
深い傷が出来ていた
アイツらとアイツらの家族が謝罪にきた
兄はとても怒って 誰かに殴りかかろうとしたけど
それを先生が止めた
「そんなことをしても、何も変わらない」
その意味がすぐにはわからなかった
でも 後で気づいた
僕の命は……
脳のダメージは取り返しのつかない状態にまでなってるって
◇10ページ目
僕は 以前の僕が望んでいたことを兄に聞いた
すると 兎さんのことを話してくれた
兎さんは心臓の手術を悩んでいるらしい
これから先の未来がある兎さんに出来ることがある
僕はそう思った
兄にお願いした
「僕がいなくなった時は、僕を兎さんにあげてほしい」
兄は震えた声で「ああ」と答えた。
◇11ページ目
僕は迷い込んだふりをして
偶然 辿り着いたと言って
兎さんと再会することに成功した
とても とても幸せだった
そして おねだりをした
うさぎさん
うさぎさん
君のふたつのルビィ
とても綺麗 下さい
◇12ページ目
昨日 兎さんに初めておねだりした
だけど すぐに「おかしい」って言われた
そりゃそうだ
普通なら 兎さんの両目を下さいなんておかしいに決まってる
だけど僕からすれば
僕の命と交換なら等価だった……
それを言いかけてやめる
だって兎さんはなにも知らないまま生きてもいいんだから
それくらい僕は兎さんを
愛していたから……
☆
子猫さんの気持ちの12ページ目まで読んで
どれだけの想いを貰っていたか
どれだけ淋しい思いをさせていたか
命がけで想われる喜びと哀しみがこみあげてくる
私は子猫さんが生きている間に
何もしてあげられなかった
そう思っている
だって言えなかったもの
「子猫さん 私もあなたを……」
愛してるって
☆
子猫さんが亡くなって
子猫さんのお兄さんがやってきた
「俺から弟の昔話をさせて欲しい」
哀しくもあり、愛おしくもある瞳だった
私は 子猫さんのすべてを
子猫さんのお兄さんから聞かされた
「弟の心臓はもうない。だが、ゼロとまでは思わない」
「……お兄さん」
「あんたは弟の恩人だ。弟はあんたから貰ったルビィで世界を見ることが出来た。あんたと同じ世界を、半分共有できた」
「でも、私は……!」
お兄さんはいいやと首をふる
「あんたの中で言ってないか? あんたの傍らで生きてるって」
言われて気づく
子猫さんにあげた左目のあった場所がカッと熱くなって
思い出しました
(僕達は同じものを見て感じて 生きていくんだ)
(ずっと一緒だよ)
そんなことを言われた記憶があります
私は震えながら 声をあげて泣きました
お兄さんは そんな私を見て
あの時 私を愛したのだと 未来に言ってくれました
ふたりの指には今 ルビィの指輪がはめられています
それを見る度 私は生きていると実感出来るのです
end
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