常世通り

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カラーンッ 『常世通りが、午後18時をお知らせします。』 「…そろそろ、帰るか。」 「そうですね。」 本当は帰したくねぇけど。 そう言いながらクズミは空になったドリンクをごみ箱に投げ入れる。 「クズミさん。」 「ん?」 スッ キレイに包装された箱を手に乗せ、ミコトはクズミに向き直る。 「今日は、楽しかったです。本当にありがとうございました。」 「……いや、散々だったろ。事件あるしオレ何度か抜けるし。」 「それも、私にとってはいい思い出です。…それから、」 深く腰を折って頭を下げるミコト。 「っ、……ごめんなさい。私は、クズミさんの思いに、…応えることが出来ません。」 ギュッ 箱を持つ手が震える。落とさないように力を入れた場所から僅かにシワがはしった。 「……ミコ。頭上げろ。」 「………。」 「ミコ!」 顔を上げたミコトは、泣いていた。 唇を噛み締め、嗚咽を漏らすのを我慢して、だけど流れる涙は止まらずに。 「オレよりしんどそうな顔すんなよ。」 「クズミさんは、…尊敬出来る大好きな先輩です。そんな人の気持ちを、無下にする事が…辛くて。」 「無下にされたなんて思ってない。」 「!」 肩を寄せようと伸ばした手は途中で止まり、それはミコトの頭に優しく乗った。 「泣くほど考えて出してくれた答えだ。どんな結果であれ、オレは反論しない。」 「…クズミさん。」 「いい加減、泣き止んでくれねぇか?せっかくのデート、泣き顔で締めるのやなんだけど。」 安心させるかのように笑って見せるクズミ。 グイッ ミコトは腕で強引に目元を拭った。 「…で、それはオレにくれんの?」 涙を物理的かつ荒く止めたミコトへの小言を飲み込みつつ、クズミは彼女の持っている箱に目をやる。 明らかに、プレゼントだ。 「はい。いつもお世話になっているのと、今日のお礼に。…受け取ってもらえますか?」 「それに、オレがノーと言うとでも?」 「ふふっ、すみません。愚問でしたね。」 クズミに渡った手の平サイズの小さな箱。 中は、 「ピアスか。」 青い色が鮮やかな菱形のピアスだ。 クズミは黄泉駅で言われるまで自分の目の色を知らなかった。これなら持っていないとミコトは思ったのだ。 「どうですか?気に入らなかったら、」 「毎日着ける。…ありがとう。」 「!はい!」 ようやく笑ってくれたミコトに、クズミは言った。 「オレ、周りからよく狂ってるとか言われるんだけどさ。」 「?…そんなことないですよ?」 「あるの。現に、オレまだ諦めてねぇから。」 慣れた手付きでもらったピアスを着け、不敵に笑う。 「ミコの返事は分かった。 けど、デート台無しだったし、オレ踏ん切り付かないしで……だから、またミコを誘うからな!」 「え?!」 「オレしつこいから!覚悟しろよ!」 帰るまでがデートだ! そう言って、入ったときと同じように手を繋ぎながら二人は常世通り改札を抜けた。
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