地獄篇

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「何だと……子どもに六文を施した? なぜそのようなことを……」 「その子は、お釈迦様から六文を施されなかったようでして……。あんな小さな子が地獄送りになるだなんて、あまりにも惨い仕打ちだと思い、私の六文を譲り渡した次第でございます」 「お主は馬鹿なことをしたな! 今すぐその子どもから、六文を取り返してくるのだ!」 「まぁ、どうしてですか?」 「お釈迦様が六文を施されなかったのは、その子どもが赦されざる罪を犯したからだ! 餓鬼畜生にくれてやる慈悲なぞ、あるものか!」 「なんて人なのっ! この恥知らずっ!」  激昂した緑は、足下の石つぶてをいくつか鷲掴みにすると、そのまま六文太に向かって投げつけた。投げられた石は高瀬舟の側の川へと落ちて、水飛沫を巻き上げた。  六文太は、緑のその怒り様に度肝を抜かれてしまった。先ほどまで、どこか飄々として、捉えどころのない様子だった女の変わりように、六文太は息を呑んだ。 「貴方も、お釈迦様も、酷い人たちだわ! あの子が罪を犯したというのであれば、それは誰もあの子に施しを与えようとさえしなかったからです! 生前でさえ、酷い仕打ちを受けて生きてきたのに、まだそれだけでは足らないというのですか! 貴方たちこそ、餓鬼畜生そのものではないですか!」
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