地獄篇

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 緑が何日もかけて霧の濃い砂利道を進んでいくと、その道中で小さな女の子が泣きながら踞っているのが目に留まった。 「まあ、まあ、貴女、どうしたの。こんなところで泣いていてはいけませんよ」  緑はその子の側まで駆け寄ると、その子をあやしながら身の上話を聞く事になった。 「おいらぁ、人を殺めちまったんだぁ……。取り返しがつかねぇ……もう、おしめぇだぁ……」  その年端もいかぬ子の名前は、珠子(たまこ)といった。珠子は、両親を亡くしてから、ひとりきりの弟ともども、孤児になってしまい、毎日飢えと戦いながらも、なんとかその日暮らしで命を繋いできたそうな。  ところが、飢えに耐えかねて、人様の畑に忍び込んだ珠子とその弟は、運悪く畑の主に見つかってしまい、命からがら逃げる事になった。  その折に、畑の主が鍬で弟を撲殺しようとするのを寸前のところで止めに入った珠子は、男を思いきり突き飛ばしてしまった。  珠子はどこまでも運がなかった。突き飛ばした畑の主は、岩に後頭部をぶつけてしまい、そのまま帰らぬ人となったのだ。  それから程なくして。人殺しの悪鬼を討ち取ろうとする村人たちから、珠子たちは何日も逃げ続けた。だが、その鬼ごっこも長くは続かなかった。  観念した珠子は、弟だけでも逃がそうと、自らが囮となった。そして、珠子は村人たちの手によって殴り殺されたあげく、黄泉の国へと渡ることとなったのだ。  珠子には、六文は施されなかった。
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