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私は部活はしていない。放課後は、学校の近くにある商店街でいつも買い物をして帰る。
母さんの好きなものが安く手に入れられた。喜んでくれるかな。朝は元気だったけど、今はどうだろう?
リュックから鍵を出して玄関のドアを開けると、
「うわ……」
思わず声が出た。
我が家は2DK。ダイニングキッチンと、私と母さんにそれぞれの部屋がある。家に入ってすぐのダイニングキッチンがものすごく荒れていた。強盗でも入ったんじゃないかと思うくらい物が散乱しているのだ。
そして、その中で母さんが、
「♪」
朝と同じ鼻歌を口ずさんでいる。
部屋を散らかしたのは間違いなく母さんだ。押入れや棚の中の物を引っ張り出したんだろうなぁ。うん。元気があるのは安心するけど……。ちょっと元気がありすぎるよ?
「おかえり!」
私の帰宅に気づいた母さんが、キラキラした笑顔を向けてくる。
「ねぇ、これ、あげる!」
そして床に落ちていた物を拾った。
それは、1枚の写真だった。
裏面が向いた状態だから、何が映っているのかは分からない。
「あげる! 欲しいでしょ?」
「いや、それよりも片付けようか?」
「大切な物だから、大事にして!」
胸にぐいぐい押し付けてくるので仕方なく受け取ると、母さんはやけに嬉しそうに部屋に戻っていった。あらら、襖を閉めちゃったよ。寝るのかな。ということは今から私1人で片付けるのか……。はぁ。
「もう、晩ごはん作りたいのに。てか、この写真は何なの……」
裏面だった写真をひっくり返した。
ーーーーえ?
私は写真から目を離せなくなった。
それは私が小学5年生の頃の写真だった。小学生の時はこの町ではなく、小さな田舎に住んでいた。その村では毎年お祭りがあって、その日に撮られた集合写真だ。
ここまでは普通だ。
だけど、
「なに、これ……?」
写真の上部ーー、みんなの頭上に広がる青い空。
そこに文字が書かれていた。
〝この写真の中で、1番早く死ぬ人は、山本冬子〟
万年筆で書かれたような下手くそな黒い文字。
「死ぬ」という文字の真下に立っているのは、おとなしそうな黒髪の女の子。
今日、同級生の分の教科書とペンケースを持たされていた女子。
私の初めての友達ーー、山本冬子だった。
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