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真っ黒の瞳
「何なんだよ、本当に」
私は朝からずっとイライラしていた。不愉快で仕方ない。
何よりも気持ち悪かった。
私は最初、写真の文字はお母さんがやったんだと思った。
私が12歳の時に起きた、とある事件のせいでお母さんは心が壊れた。だから何をやるか分からないところがあるけど、これはいくら何でもひどい。
だけどすぐに気づいた。この万年筆で書かれたような文字は、書いたものではない。何度もいろんな角度から見直したけど、インクが見えないのだ。
ゾッとした。
奇妙な考えが生まれた。
この文字は、写真の表面に書かれてあるのではなく、中に映り込んでいるのではないか?
バカみたいだけど、そうとしか思えない。でも、どういうことなんだろう。写真を初めてもらった時は、こんな文字は絶対に無かった。
何なの? 心霊写真? 幽霊じゃなくて、文字が現れることなんてあるの? それとも私までおかしくなった? お母さんみたいに幻覚が見えるようになった?
いやだ、気持ち悪い。気持ち悪い。
怖いーー。
「ねぇ、お母さん!」
私は自分の部屋のベッドで寝転がるお母さんに声をかけた。お母さんはにこにこ笑いながら目と口を開いた。
「ねーねー、お母さんね、いいこと考えていたの。今度、温泉に行かない?」
私は写真を指す。
「聞きたいことがあるんだけど! 母さんにはこの文字が見える!?」
「たまにはいいじゃない? それでね、豪華なご飯を食べるの」
「この文字が見える!? 見えない!?」
「どこがいい? 箱根? 道後? 城崎?」
「話を聞いて!」
「外国の温泉にも行ってみたいわねー」
ーーダメだ。
会話にならない。
あぁ、もう!
「お父さんも早く帰ってこないかしらねぇ? 家族水入らずで温泉旅行に行きたいなぁ」
いや、父さんはもう帰ってこないよ。
自分で海に飛び込んで死んだじゃん。
思わず言いそうになって、止めた。
私は諦めて部屋を出ていった。
水を一杯飲んでから、私は改めて写真を見た。
〝この写真の中で、1番早く死ぬ人は、山本冬子〟
写真に映るのは村の人たち。全部で31人。写真の中で1番年上だと思われるのは、真ん中に写っているおばあちゃんだ。たぶん70歳から80歳くらい。
「このおばあちゃんより、先に死ぬってわけ?」
だってあの子はまだ高校1年生だよ?
私はしばらく悩んで、でもどうしようもなくて、とりあえず写真を押入れの中に隠した。
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