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朝になった。
あの写真のせいで、家事も宿題も集中できなくて、ほとんど寝られなかった。
(……本当にあの写真は何なの?)
どうしても気になって夜中に何度か確認した。だけど例の文字はいつまでも消えない。
気だるいまま登校する。
道の落ち葉を避けて歩きながら、私はあの子について考えた。
私とあの子は、狭い田舎で生まれた。
同じ年齢の女の子は私たちだけで、いつも一緒に遊んでいた。川や山で遊んだり、野ウサギに餌をあげたり、漫画を描いたり。あの子は内気だけど優しくて、すごくキレイな瞳をしていた。私は河原に落ちている石を集めるのが好きだったけど、あの子の黒い瞳はどんな石よりも美しくて、宝石みたいだったのを覚えている。
本当にいつも一緒だった。
私たち親子が、あの田舎を出るまでは。
校舎に着いた。
私のクラスは1年2組で、あの子は1組だ。自分の教室へ着く途中に1組の前を通るのだけど、いつもはさっさと通り過ぎていた。
でも今日は無意識に足を止めていた。あんな訳の分からない現象が起きた今、気にならない方がおかしい。私は思いきって1組の教室内を見た。
ーーいた。
初めて覗いた場所なのに、あの子をすぐに見つけられた。
窓際に並ぶ真ん中の席。
あいつらはまだ登校していないようで、あの子は1人座って、外を見ていた。
相変わらずキレイな黒髪だ。私の生まれつき茶色っぽい髪とは全然違う。昔はツインテールだったけど、今はボブカットだ。身長は私より小さかったのに、同じくらいになっていると思う。細い体つきは変わっていない。
ーーあの子が、1組の一部の女子に頻繁にパシられているのは、周辺のクラスでは有名だった。
昨日みたいに荷物持ちをさせられたり、パンやお菓子を買いに行かされたり、課題を代わりにさせられたり……。暴力や無視といった目立つ行為は無く、あの子自身が文句を言わないから、先生たちは重く受け止めていないようだった。
ーーでも、いいの?
本当に嫌じゃないの?
だって、あんたは主張するの苦手だったじゃん。
いつだって、自分を押し通すよりも、自分を押し殺す方を選んでいた。
その瞬間だった。
あの子が、急にこっちを向いた。
目が合った。
私は反射的に走っていた。
「あ、生駒さーん」
「おはよー」
2組に駆け込むと、いつもの2人に話しかけられる。何とか愛想笑いを返したけど、心臓が飛び出しそうなくらいドキドキして苦しかった。
気のせい……だったのだろうか。
久しぶりに見たあの子の目は、真っ黒だった。
昔の輝きはどこにも無かった。
まるで何かを諦めたように、寂しそうに。
私はこの日ずっと、あの真っ黒な瞳が頭に焼き付いて離れなかった。
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