待ち伏せボーイとうんざりガール

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 気付いたら、私は立ち上がっていた。考えるより先に、身体が動いていた。  ヤツは仮にも怪我人だ。しかも、かなりの重傷。いくらヤツが相手とは言え、座ったままその様子を見ていることはできなかった。  少し距離を取って、斜め後ろを歩く。  ぶっ倒れたりはしないから大丈夫だよ、と、ヤツは振り返りながら笑った。 「うさぴょんが書いたの、どれ?」  私は二つの作品を指差しながら、どうして呼び名が安定しないんだろうと呆れ半分で思った。ヤツのことだから、どうせ気まぐれなのだろう。  隣り合って飾られているそれらを交互に見比べながら、「俺はやっぱこっちだな」とヤツは言った。 「そんなひょろっこい身体して、どうやったらこんな豪快な字が書けんの?」 「…何、ひょろっこいって。方言?」 「えっ、ひょろっこいって言わない?」 「言わない」  初めて聞いたけれど、おそらく痩せているという意味の言葉だろう。それは何となく分かる。けれどそれならもう少しマシな言い方をしてほしいものだ。
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