待ち伏せボーイとうんざりガール

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 私は何も、嫌悪感だけでヤツのことを『ヤツ』と呼んでいるわけではない。  本当の名前も『ヤツ』なのだ。  別に名前なんて知りたくもなかったけれど、学校帰りの私を待ち伏せし始めた頃、ヤツは自分から名乗った。 「俺、谷津(やつ)逸人(はやと)栄工(さかこう)の電気科で、宇佐美さんとはタメだよ」  栄工(さかこう)とは、(さかえ)工業高校の通称だ。  ちなみに私が通っているのは(さかえ)第一高校、通称栄一(さかいち)。こちらは男女共学の普通高校だ。栄工も共学校ではあるけれど、工業高校という性質上、全校生徒の九割が男子らしい。  栄工と栄一は最寄り駅が同じだ。栄工は東口から徒歩三分、対して栄一は西口から徒歩十五分。ヤツが言っていたように、夏場はこの徒歩十五分がなかなかの地獄だった。だからなおさら、駅近の学校に通うヤツに腹が立った。  このことに関してヤツに腹を立てるのはお門違いなのかもしれないけれど、仕方ない。ヤツの日頃の行いが悪いせいだ。  日頃の行いとはもちろん、私に対するストーカーじみた行動のことを指している。
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