夜に、叫ぶ。

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 俺は、必死に先輩の後を追った。 「先輩、危ない!」  前を行く先輩の顔のあたりを、例の触手が狙った。  ひゅんっ!  先輩はかろうじて体をよじり、触手を避けた。  ぴしっ!!  しかし次の触手が、あっという間に先輩の足元を襲った。 「くそうっ!」  足をとられ、先輩は軽くよろめいた。  ひゅん! ひゅん……!  その隙を狙うように、何本もの触手が矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくる。先輩は、攻撃を避けるので手一杯で、前に進めない。 「勇二、頼!ここは、俺が食い止める。ヤツを……ヤツの、息の根を止めてくれ!」  ええ?!  そんな……どうすればいいんだ、いったい。 「これを……使え!」  先輩は、胸ポケットから拳銃を取り出した。 「まだ、扱えるな?」  俺は頷いた。まだ、やれるはずだ。  その時、触手の一本が拳銃を持つ先輩の腕を襲った。 「くそっ!」  先輩は必死に右手をかばう。こいつを奪われたら、おしまいだ。 「先輩、こっちへ!」  俺は壁伝いに移動しながら、先輩に手を差し出した。 「おう!」  先輩は伸ばした手で、手首を捻って俺に拳銃を放った。  俺は拳銃をしっかりと受け取ると、階段の下へと回り込んだ。階段の上には、あの潰れたザクロのようなものが、縦いっぱいに口を開け、何か叫んでいる。 「しゅえええええっ」 「しゅわああああっ」  言葉なのか、只の荒い息遣いなのか。そのザクロの周りから、無数の触手が伸び、先輩に襲いかからんとしていた。 「勇二、やれ!」  俺は何年かぶりに、拳銃を握り締め、そのザクロの真中に狙いを定めた。っ「きっ!!」と、そのザクロがこちらを向いた。先輩に絡み付いていた触手が、俺の方に向かって伸びてきた!  一発だ。この一発で、仕留めるしかない。  俺は覚悟を決め、引き金を引いた。  ダーン……!!  弾丸は、俺の方を向いたザクロのど真ん中に命中した。 「ぎゅえあああああっ!」  聞いたこともないような悲鳴をあげ、そいつはのけぞった。俺を目指していた触手どもが、気が狂ったように暴れだした。俺はそいつらを避けながら、階段を駆け上った。 「とどめだ!」  俺はのけぞったザクロにもう一発。そして……「和美さんの胸」に一発。俺は思わず目をつぶった。そいつはしばらくもだえ苦しみ、断末魔の声を上げていたが。やがて、動かなくなった。暴れていた触手たちも、力なくその場に萎れていった。俺は拳銃を握り締め、階段の上に立ち尽くしていた。   
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