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俺は、なんとか逃げる方法を探した。
「先輩、先輩……!」
動かなくなった先輩の身体を揺さぶりながら、あたりをさりげなく見渡した。なんとか仁美の気をそらし、玄関から飛び出せば……
「ふん、意外にあっけなかったな。もっとタフな奴かと思っていたが……」
仁美が、相変わらずニヤニヤしながら嘲るように言った、
「先輩?」
俺は先輩の口元に耳を近づけた。何か、先輩が言っている事を聞き取るように。それを見て、仁美が少しこちらに近づいてきた。
「ん? まだ死んでなかったか。やはり、しぶといな!」
俺はそのまま、「何か聞こうとするフリ」を続けた。よし、ひっかかったな……!
「え? 何ですか先輩、もう1回言って……」
「どけ! とどめをさしてやる!」
その瞬間、ありったけの力をこめて、俺は仁美に体当たりした。
「あああっ!」
ふいを付かれ、仁美は体当たりをまともに食らい、階段に激突した。今だ!
俺は玄関に駆け寄り、ドアを蹴破って、外へと転がり出た。そして振り向きもせず走り出し、車へ乗り込んだ。震える手でキーを廻し、エンジンを掛けた時。
「待てぇっ!!」
バックミラーに、家から飛び出してくる仁美の姿が映った。俺は、ギヤをバックに入れ、思い切りアクセルを踏み込んだ。
ぐわんっ!!!
車の後ろに、鈍い衝突音が響いた。
ききききぃっっ!!
……急いでブレーキを踏む。だが、車はそのまま後ろから玄関に激突した。物凄い衝撃がして、一瞬意識が遠のいた。気がつくと、勢い余って車体ごと、家の中へ飛び込んでしまっていた。
車のドアを開け、後ろを伺うと。仁美の身体が、車の後輪の下で引き裂かれていた。俺はしばらく様子を見ていたが、仁美はもう動かなかった。もとの、和美さんの遺体に戻っていた。
そしてその脇で。先輩の死体も、俺の車の下敷きになっていた。俺は黙ってまた車に乗り込むと、再びエンジンをかけた。
俺はそのまま、車を走らせ続けた。道はどこまでも続き、夜の闇は、俺を押し潰そうとするように、漆黒の色を濃くしていた。
「わああああああっ!」
俺はいつしか叫びだしていた。それは、終わる事の無い、絶望の叫びだった。俺は叫びながら、ただひたすらに、アクセルを踏み続けた……。
―了― (Bad ending-#12)
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