夜に、叫ぶ。

59/113
前へ
/115ページ
次へ
 ☆特別編#2――「和美編」☆  ずっと……ずっと、私の中にいる。もう一人の「私」が。  追い出そうとしても、追い出せない。いえ、たぶん、本気で追い出そうとは、思っていないからかもしれないけど……。  あの人は気付いていない。“あの日”、姉さんを一度閉じ込めてから、姉さんはいなくなったものだと思っている。       でも、違う、ずっと、ずっと私の中にいる。ひっそりと、そして、時折私に、語りかけながら。 『和美、お前は私のことが嫌いだったんだろう?』 『和美、お前は私が疎ましかったろう?』 『和美、私は……お前が、憎らしかった!』  姉さん……いつもお母さんや、周りの人に咎められていた。  その行動や、言葉を。それが、私が原因だって、気付いてたけど。  でも私には、姉さんをかばう事しか出来なかった。いえ、満足にかばう事すら出来なかった。いつも、姉さんが“悪者”だった……。  今のままじゃだめよ、姉さん。姉さんが変わらなきゃ! ……そう言ったこともあったけど。でも私だって、私を変えられるわけじゃない。だから……そう、きっとこのまま、何も変わりはしないんだって思ってた。  それが、急にいなくなってしまうなんて! どれだけ心配したか……そして、どれだけ悔やんだか。もっと何か、してあげられる事があったかもしれないのに。私は、いつしか仕方ないものだとあきらめていた。それが、姉さんにもわかったのかもしれない。私は、必死に姉さんを探した……。       『それでいい男を見つけて、結婚かい! さぞかしいい気分だろうよ!』  姉さん、違う。そんなんじゃない……! 『私は、全てに絶望して……ある意味、死に場所を探してたんだ! それが、その最中に結婚とはね! お前がわたしの事をどう思ってたか、ようくわかったよ!!』  そうじゃない、わたしは、何か「頼れるもの」が欲しくて…… 『しかも、最初は勇二ってヤツに惚れていながら、想いが伝わらないとわかると、口説いてくれた先輩の方に鞍替えだ! おまえって女の性根がよくわかるよ!』  そんな……そんなんじゃない。あの人は、ほんとにいい人よ……! 『その後に勇二の気持がわかって、悔やんだろう? “はやまった”って思ったろう。ほんとにおまえは……良い子の皮を被った、性悪女だよ!』  やめて……姉さん、もう……! 『私は……お前の愛したもの、お前の大切なものを奪ってやる! 旦那も、勇二も。お前は、じっと見ているしかないんだ! 自分の身体の中で。わたしが、周囲から愛されるお前を、ずっと影から見てきたように……!』  姉さん、そんな……私はいいから、あの人や、勇二さんだけは……! 『それが、わたしの復讐なんだよ!』  ……また……私の意識が、私の中に消えた。今は……「私の外」に、私がいる。もう、止められない…… 「わたしのする事を、じっと見てるがいい!」  でも、きっと気付くわ。あの人は、きっと……!  私は、祈った。どうか、私に気付いて。私は、ここにいる……  闇の中、ただ、祈った。そしていつしか意識は、すうっと消えていった……      「おかえりなさい、あなた」 「おう、ただいま」  気付いて……どうか……      特別編#2―了―   「仁美編」のお話はこれで終了です。お疲れ様でした!!
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加