夜に、叫ぶ。

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 俺は、とりあえず先輩を落ち着かせようと思った。     先輩の話は、あまりにも現実離れしている。とても、先輩だからと言って信じられる話ではない。それに今の先輩からは……何か、狂気すら感じる。こんな先輩は初めてだ……!  俺は努めて優しく、話し掛けた。 「先輩、どうか落ち着いてください。先輩が体験した事……それが、あまりに衝撃的だったんだとは思いますが。」  しかし先輩は逆に、きっ! と俺を睨み付けた。 「勇二、信じてないな……? お前なら、信じてくれると思ったのに……」  先輩の視線の向こうで、西条が『あいた……』といった顔をしている。  しまった、逆効果だったか。西条なら、もうちょっと気の効いた事を言えただろうに。俺は自分の失敗に気付きながらも、なんとか言葉を続けた。 「はい。いや、もちろん、全部を疑っているわけではないです。しかし、全部が全部本当の事とは、思えなくて……」  西条は視線を俺に向け、『止めろ!』と言っている。ダメだ、話せば話すほど、ウソになる……。 「ああ、いいさ……こんな話、信じろと言う方がムリだ。わかっている」  先輩はそれきり、黙りこくってしまった。俺は途方に暮れた。 「先輩、すいません……俺、どうしたらいいかわからなくて……」  今度は、正直に言った。本当に、どうすればいいのかわからない。 「とりあえず、警察に行きましょう。そこで、もう少し落ち着いてから、話の続きをすればいい。そしてその後、現場の者と一緒にここへ戻りましょう」  西条が先輩に、諭すようにそう話しかけた。なるほど、さすがだ。そういう風に、具体的にどうするかを提案すれば良かったんだな。やはり、西条を連れて来てよかった。  先輩も少し考えてから、静かに頷いた。 「ああ、そうだな……そうしよう。そのほうがいい」  俺は、ほっとため息をついた。それから俺達は、揃って部屋を出た。       家を出る間際、先輩は「ちらっ」と振り返り、二階を見上げた。 「先輩、気になりますか……?」  西条が尋ねた。 「ああ……確かに、死んだと思うが。あれきり、物音もしないし」  俺は、どちらかというと早くこの家を出たかった。先輩の話がウソにせよほんとにせよ、いたたまれない気持ちでいっぱいだったのだ。 「勇二の車でここまで来たんですが、それで警察まで行くってことでいいですか?」  もうすっかり、西条がペースを作っている。俺も、素直に従った。  俺は車に乗り込み、キーを回した。後部座席に、西条と先輩が乗った。 「行きましょう、先輩……」  俺は軽く振り向き、先輩に声を掛けた。先輩は黙って頷いた。さあ、出発だ。俺はアクセルを踏み込んだ。……その時。  どしん!!  何かが、車に激しく体当たりしたような衝撃があった。 「な、何だ?!」  俺は思わず、窓から身を乗り出した。 「勇二、危ない!」  後ろの座席から先輩が俺を引っ張り込んだ。 どしっ!!  ……今度は後ろからだ。 何が起きたんだ……?  答えは、すぐにわかった。いつのまにか、車の周りに人だかりができていた。いや、それは“人”ではなかった。首から下は確かに人間だが、その頭の部分は……人間の顔ではなく、例えるなら熟れて腐りかけた、果実のようなモノが乗っかっていた。  そいつらが、おそらく十人以上で、俺達の乗った車を包囲していた。 「先輩、こいつらが先輩の言っていた……?」  西条が尋ねた。 「ああ、そうだ……! 和美が、いや、和美の身体をを乗っ取りやがったヤツだ。くそう、他にもこんなにいやがったのか……!」   
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