夜に、叫ぶ。

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 俺はハンドルを握り、震えていた。 「先輩、ど、どうすれば……?」 「行け!とにかく、突っ切るしかない!」  先輩の叫ぶような指示に従い、俺は思いっきりアクセルを踏み込んだ。首から下は確かに人間らしく、何人かが車の正面にブチ当たり、弾き飛ばされた。しかし。そいつらは、腕を折られ、足を引きずりながらも、すぐに立ち上がってきた。 「うわあああ!」  俺は夢中で叫んだ。  どかっ! どかっ!!  やつらは躊躇うことなく、体当たりするかのように、車に飛びかかってくる。 「勇二、止まるな!!」  言われなくても、止まるわけにはいかないだろう?!  俺はひらすらに、アクセルを踏みつづけた。  俺はなんとかこいつらを振り切ろうと、必死だった。夢中でアクセルを踏み、ハンドルを左右に切った。しかし、それが命取りだった。  きききききいっ!  車はコントロールを急激に失い、横滑りし始めた。 「わあああああっ!」  恐らくやつらを踏みつけた時に、その血がタイヤにへばりついたんだろう。もういくらハンドルを切っても、ブレーキを踏んでも、車は止まらなかった。  ガッシャーン……!!  車は、先輩宅から100メートルと離れていないところで、道路沿いの民家の塀に激突した。俺はしたたかに、頭をフロントガラスに打ちうつけた。先輩と西条の身体が後部座席から飛び出し、折り重なるように倒れた。  車は、塀を砕き、民家の壁にまで激突し。そこでやっと、止まった。 「うう……」  俺は激痛に身をよじりながら、西条と先輩の様子を伺った。2人とも、苦しそうなうめき声をあげたまま、動けそうにない……。  砕けた塀の向こうから、“やつら”が近づいてくるのがわかった。しかし俺たちにはもう、ここから逃け出す術はない…… 「きゅえええええええっ」  それは、やつらの「雄たけび」だったのかもしれない。あの熟れたザクロのような頭部の前面が、縦にぱっくりと口を開けていた。 「きゅええええっ」 「きゅええええっ」  やつらがクラッシュした車の周りに集まってきた。その雄たけびが、四方から聞こえてくるほど、すぐ傍まで……。  しゃあああああっ!  目の前に、ぱっくりと縦に割れたザクロが迫ってきていた。その割れた縁には、細かく、尖った白い歯がびっしりと並んでいた。裂け目は、驚くほど大きく開き。そして、俺の頭をすっぽりとくわえ込んだ。  首筋に激痛が走り、目の前が真っ暗になった。  これで、お終いか……もっと、他に取るべき道はなかったのか……?  今さらのような俺の後悔をよそに、俺の頭部は、その鋭利な歯によって。完全に、胴体から切り離された。     ―了― (Bad ending-#13)
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