夜に、叫ぶ。

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「勇二……」  先輩の声に、俺は我に帰った。 「やったな、勇二。見事だった」  先輩は階段の下から、俺に語りかけてきた。俺はやっと一息つき、階段を降り始めた。 「先輩……」  先輩は俺に向かって、「にこり」と笑うと。急に、その場に崩れ落ちた。 「先輩!」  先輩の体は、あの触手にやられたのだろう、背中や腹の辺りを、ズタズタに切り裂かれていた。 「先輩、しっかり……! 今、救急車を呼びます!」   「よくやった、勇二……ありがとう……」  先輩は微笑んだままそう言うと、「がくっ」と首を落とした。 「先輩!!!」  そんな……せっかく、あのバケモノを倒したのに……!  俺は先輩の胸に耳を近づけた。……まだ、心臓は動いている。俺はほっとした。急いで、助けを呼ばなくては……。そして改めて、この家の中の惨状に気が付いた。  傍らには、首を無くした西条の死体。  階段の上には、絶命した正体不明の化け物。  すぐ横にいる先輩は、血だらけで息も絶え絶えだ。    これを駆け付けた救急隊員たちに、なんと説明したらいい……?  俺は首を横に振った。いや、いくら説明しても、無駄なことだ。俺だって、ついさっきまで信じられなかったんだから……。 「先輩、行きましょう。」  俺は気を失っている先輩に話し掛けた。とりあえず、先輩を病院に連れて行こう。ここに人を呼んでも混乱が増すだけだ。まずは先輩を病院へ。そして、その後に戻って後始末を。西条の死体と、あのバケモノの……。       俺は先輩を担ぎ上げ、車に乗せた。そして、車に乗り込もうとした時。 「しゅえええええっ」  あの……あの、バケモノの声だ?!  俺は思わず振り返った。いや、違う。先輩の家からじゃない!  この家の近くに……どこかに、別の“ヤツ”がいる。  この分じゃ、きっと……? 「一匹とは、限らんな」  俺は何故か、「ふふっ」と笑った。拳銃を取り出し、弾の残数を数える。あと、3発……。なんとか病院までは、持つかも……な。  俺は車に乗り込むと、まだ気を失っている先輩に、語りかけた。 「行きますよ、先輩……!」  何かが、この街で……いや、この近辺だけじゃなく、もしかしたら日本中、世界中で始まっているのかもしれない。  さっき俺が一匹目を殺したのは、終わりじゃなく、「始まり」に過ぎなかったんだ。  俺は強く、アクセルを踏み込んだ。  車は闇の中、爆音とともに走り始めた。     ―了― (Little good ending)
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