夜に、叫ぶ。

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 俺は自分で、2階を見てこようと思った。 「西条、ちょっと……」  俺は西条に囁いた。 「俺が、2階の様子を見てくる。先輩が言ったように、和美さんに化けた怪物ってやつがいるのかどうか……それとも、まったく違う何かがいるのか。とにかく、上に行けばはっきりすると思う」  西条も頷いた。 「ああ、そうだな……ここは、俺が見る。先輩の様子も普通じゃないし、放ってはおけないしな」  俺は先輩に言った。 「先輩、俺が、2階を確かめてきます。先輩の言った、そのバケモノが……息絶えているかどうか。先輩は、ここで待っていて下さい」  もう少しで、“ほんとにいるのかどうか”と言ってしまうところだったが。先輩は俺を見て言った。 「そうか……だが、気をつけろよ……」  俺は部屋を出ると、ゆっくりと階段へ向かった。そして、階段の下から2階を見上げた。  この上で、いったい何が起きたんだ。あの先輩を、あんなにまで憔悴させるほどの、何かが起きたのは間違いない。そこにあるのは、いったい……?  俺は一歩ずつ、ゆっくりと、階段を登り始めた。  ぎし、ぎし……  階段が、軽くひずむ音が響く。家の中は、不気味に静まり返っている。そう、この家に入る前も、こんな静けさに満ちていたな……。俺は階段を登りきり、2階の小部屋の前に立った。     ふう……と一息、深呼吸をする。 俺はドアノブに手を掛け、ゆっくりと開いた。そこには……!  目を疑う光景が広がっていた。  確かにそこには、和美さんが倒れていた。しかし倒れているのは、先輩の言った、バケモノなんかじゃない! 紛れもない、「和美さん本人」だった。 「和美さん!」  俺は思わず駆け寄り、和美さんを抱き起こした。和美さんはぐったりとしていたが、かすかに、まだ息があった。俺は涙が出そうなくらいほっとした。よかった……! 最悪の事態は、免れた。 「和美さん、しっかり……! 今、病院に連れて行きます」  俺は和美さんを抱きかかえ、階段を降り始めた。   
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