夜に、叫ぶ。

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 俺は、やはり和美さんを病院に連れて行くことにした。 「いや、今から電話して救急車を呼ぶより、車で近くの救急病院まで行った方が、断然速い。一刻を争うかもしれないんだ。それはできない!」  俺は叫んだ。意地になっていたのかもしれない。西条は、俺の和美さんに対する気持ちに薄々感づいていた。だからこそ、あんな提案をしてくれたんだと、思ったが。  だが、後へは引けなかった。この、狂った先輩の言う事を聞くことはできない! 俺の決意がわかったのか、先輩は、悲しそうに言った。 「そうか、勇二……どうしても、俺の言うことが聞けんか」  先輩は、拳銃の引き金を引いた。  ダーン……!  ……俺は一瞬、気が遠くなった。自分が撃たれたのだと、思ったんだが……。痛みは、全く感じなかった。えっ……? そして、目を開けると。  俺が抱いていた和美さんの頭に、銃弾は命中していた。  和美さんのこめかみから、血が吹き出ていた。 「わあああああっ!」  俺は和美さんの体を床にを降ろすと、先輩に殴りかかった。 「よくも……よくも!」  先輩は、俺のなすがままになっていた。引き金を引き、そこで精魂尽き果てた、とでも言うように……。俺は、床に倒れた先輩の頬を、拳で殴りつけた。 「やめろ、勇二!」  西条が突然叫んだ! 「止めるな、俺は……もう許せない!」 「見るんだ、勇二!」  西条が、興奮する俺の肩を強引に引き寄せた。俺の目に、さっき銃弾に打ち抜かれた、和美さんの姿が映った。  いや……それはもう、和美さんではなかった。  さっきまで、和美さんの顔だったものが。今は、まるで熟れ過ぎて潰れたザクロのように、薄気味悪い、ぐちゃぐちゃしたものになっていた。  俺はただ茫然と、その「異形の姿」を見ていた。 「勇二、わかったか……」  先輩がゆっくり起き上がった。 「これが、”こいつ”の正体だ。うまく化けやがる……! 俺も騙されたんだ。勇二、お前は責められんよ」  先輩はかすかに笑った。  俺はしばらくなにも考えられなかった。まさに、“呆けていた”というとこだ。俺が抱き起こし、救い出したと思ったものが。それが……。 「勇二……」  西条が俺の肩に手を置いた。 「和美、さん……」  その時、はっきりと、和美さんの“死”が俺の中に認識された。全身が、わなわなと震えだした。 「和美さん……なんで、なんで……?!」  わああああっ!!  俺は、こらえきれず泣き出した。泣きじゃくる俺を、西条が抱き起こした。先輩は、黙って俺を見ていた。きっと、俺の和美さんへの“想い”がわかったのかも……。  今更もう、どうにもならないことだが。そう、もう元には戻らないんだだ……!     俺はただ号泣し続けていた。  横たわる、“和美さんだったモノ”の傍らで……。     ―了― (Bad ending-#14)
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