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俺は、その場で事の成り行きを見守っていた。
「見守っていた」というと聞こえがいいが、ようするに、足がすくんで動けなくなってしまったのだ。
さっき先輩の話を聞いたときは、とても現実のこととは思えなかった。それが今では、紛れもない現実として、俺の目の前に繰り広げられている。いま起きていることを把握するので、精一杯だった。いや、それすらろくにできそうにない……。
すると先輩は、そっと懐から拳銃を取り出した。
しゅんっ!!
さっき俺を襲った触手が、先輩を襲った。先輩は、「さっ」と階段の影に身を隠した。
しゅん! しゅん!
触手は、一本ではなかった。矢継ぎ早に、何本もの触手が先輩目掛けて伸びてくる。
「くそおっ!」
先輩は、階段の脇に足止めをされた格好だった。
「勇二!」
俺は「びくん!」となった。
「勇二、お前の助けがいる……なんとか、ヤツの気を引いてくれ!」
そんな……「ヤツ」の、気を引く? どうやって??
「頼む、勇二!」
ただ事態を傍観していただけの俺には、何をどうすればいいのかわからなかった。ヤツの気を引いたとしても、それじゃあ、俺がやられるだけじゃないか……?
安全に、ヤツの注意を逸らす。そんなマネが、俺に出来るか?
はっ……
突然、さっきのライターのことを思い出した。さっきは夢中だったが、ヤツも、生き物だということか? 火には、弱いのかもしれない……。
俺は応接間から雑誌を持ち出すと、丸めて火を点けた。
「これで……いけるかもしれない」
燃えだした小さな火を見つめながら、独り言のように俺はつぶやいた。俺は思いきって、燃え上がった雑誌を、階段の上に向かって放り投げた。
「ぎゅえええっ!」
ヤツの、叫び声が響いた。今だ!
先輩と俺の目が合った。先輩は素早く階段下に移動すると、さっと狙いを定めた。
しゅんっ!!
触手がまた、先輩に襲い掛かって来た。
ダーン……!
それとほぼ同時に、銃声が響いた。
びしいっ!!
先輩の顔に、もろに触手が当たった。
「先輩!」
先輩は体ごと、玄関口まで弾き飛ばされた。俺は思わず先輩の側に駆け寄った。そして自分が、階段の下に来ていることに気づいた。
「あっ……?!」
俺は思わず振り向いた。ヤツは、どうなった……?!
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