夜に、叫ぶ。

67/113
前へ
/115ページ
次へ
 俺は、その場で事の成り行きを見守っていた。    「見守っていた」というと聞こえがいいが、ようするに、足がすくんで動けなくなってしまったのだ。  さっき先輩の話を聞いたときは、とても現実のこととは思えなかった。それが今では、紛れもない現実として、俺の目の前に繰り広げられている。いま起きていることを把握するので、精一杯だった。いや、それすらろくにできそうにない……。  すると先輩は、そっと懐から拳銃を取り出した。  しゅんっ!!  さっき俺を襲った触手が、先輩を襲った。先輩は、「さっ」と階段の影に身を隠した。  しゅん! しゅん!  触手は、一本ではなかった。矢継ぎ早に、何本もの触手が先輩目掛けて伸びてくる。 「くそおっ!」  先輩は、階段の脇に足止めをされた格好だった。 「勇二!」  俺は「びくん!」となった。 「勇二、お前の助けがいる……なんとか、ヤツの気を引いてくれ!」  そんな……「ヤツ」の、気を引く? どうやって?? 「頼む、勇二!」  ただ事態を傍観していただけの俺には、何をどうすればいいのかわからなかった。ヤツの気を引いたとしても、それじゃあ、俺がやられるだけじゃないか……?  安全に、ヤツの注意を逸らす。そんなマネが、俺に出来るか?  はっ……  突然、さっきのライターのことを思い出した。さっきは夢中だったが、ヤツも、生き物だということか? 火には、弱いのかもしれない……。  俺は応接間から雑誌を持ち出すと、丸めて火を点けた。 「これで……いけるかもしれない」  燃えだした小さな火を見つめながら、独り言のように俺はつぶやいた。俺は思いきって、燃え上がった雑誌を、階段の上に向かって放り投げた。 「ぎゅえええっ!」  ヤツの、叫び声が響いた。今だ!  先輩と俺の目が合った。先輩は素早く階段下に移動すると、さっと狙いを定めた。  しゅんっ!!  触手がまた、先輩に襲い掛かって来た。  ダーン……!  それとほぼ同時に、銃声が響いた。     びしいっ!!  先輩の顔に、もろに触手が当たった。 「先輩!」  先輩は体ごと、玄関口まで弾き飛ばされた。俺は思わず先輩の側に駆け寄った。そして自分が、階段の下に来ていることに気づいた。 「あっ……?!」  俺は思わず振り向いた。ヤツは、どうなった……?!
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加