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俺は、玄関のインターホンを押した。
返事は、ない。もう一度押し、こちらから呼びかけてみる。
「先輩、勇二です。……中にいますか?」
少しして、ようやく返事が返ってきた。
「勇二か……。よく来てくれた……」
電話の時と同じ、あの弱々しい声だ。声は確かに先輩だが、そのトーンはまるで別人のようだ。
「カギは開いている。中へ入ってくれ……」
俺はノブを廻し、家の中へと足を踏み入れた。
中は薄暗く、玄関先の廊下奥からかろうじて灯りがもれている。先輩は、あの奥にいるんだろうか。
「先輩! 勇二です。奥の部屋ですか?」
「ああ、こっちだ。来てくれ……」
相変わらずの、やっと聞き取れるくらいの声が返ってきた。俺は、奥の応接間へと進んだ。
「先輩……」
先輩は、その身をソファーに埋めてしまうかのように、がっくりと。まさにがっくりと頭を下げ、肩を落とし、座り込んでいた。
「先輩……いったい、何があったんですか?」
そう呼びかけても、返事はない。それどころか先輩は、まだ一度もこちらの方を見ようともしない。
「先輩!」
俺は先輩の肩に手を掛け、顔を覗き込んだ。
「……!」
その顔は、確かに先輩の顔だった。だが、本当に先輩なのか? と思うほど、頬はげっそりとやせこけ、目は落ち窪み、無精ひげがあご一面を覆っていた。あの消え入りそうな声以上に、その顔は「誰か違う人」かのようになっていた。
「いったいどうしたんすか、先輩……」
俺は自分がもう、泣き出しそうになっているのがわかった。こんな先輩を今まで 見たことがない。いや、決して見たくなかった……!
「……電話で話したとおりだ。俺は、ついさっき、この手で、和美を殺した……」
先輩は自分の両手のひらをみつめながら、絞り出すような声を発した。
……やっと喋ってくれたと思ったら、これかよ……!
「先輩、何言ってんすか! そんなわけないでしょう?! 先輩が、和美さんを殺すだなんて……!!」
少しの沈黙の後、先輩がぽつりと言った。
「上の部屋に、和美がいる。……いや、和美の“遺体”がある。見てくるか? ……そうすれば、俺の言う事も信じられるだろう」
俺は、ごくりとつばを飲んだ。和美さんの遺体が、上にあるだって……?!
俺は……
A:応接間を出て2階へ向かった。→17ページへ
B:一人で2階へ行くのは嫌だった。→次ページへ
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