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俺は西条に「撃て!」と叫んだ。
「撃て、西条!」
俺は思わず叫んだ。西条は「はっ」と我に帰ると、すかさず狙いをつけ、目の前のバケモノの頭……「ぐちゃっ」としたザクロめがけて、引き金を引いた。
ダーン……!
びちゃっ! という音と共に、そのザクロがひしゃげた。
「くえあっ、くおおおおおおっっ」
叫びととも、悲鳴とも付かない声をあげ、そいつはのけぞった。先輩に絡み付いていた何本もの触手が、びん!と先輩を跳ね飛ばした。
「先輩!」
俺は、壁に叩きつけられた先輩に駆け寄った。
「勇二、逃げろって言ったろ……?」
先輩は俺を見て、しかし、嬉しそうに言った。
「そんな、逃げるわけないじゃないすか」
俺も微笑みながら答えた。
「勇二! 油断するな!」
西条が叫んだ。見ると、“そいつ”はまだ息絶えたわけではなかった。いや、むしろ死に物狂いで、触手をめちゃくちゃに振り回していた。
「しぶといヤツめ……!」
先輩は自分の拳銃を構えると、西条と同じくザクロの中心を狙った。
ダーン!
続いて、西条もまた引き金を引いた。
ダーン! ダーン……!!
やっと……やっとそいつは、動かなくなった。かすかに、触手の一本だけがが、ひくひく……。と動いていたが。しばらくしてその一本も、床に「ぽとん」と、力なく転がった。
「先輩、無事ですか?」
西条も駆け寄ってきた。
「西条、お前も来てたのか……」
俺は、少し申し訳なさそうに答えた。
「はい、電話で先輩の話を聞いて。現職の刑事がいた方がいい、と思って……」
先輩は「ふっ」と笑った。
「別に責めてるわけじゃないよ。おかげで助かったんだから……」
先輩はゆっくりと身体を起こした。まだ、ヤツに締め付けられた痛みが残っているようだ。俺達はほっとため息をついた。
「先輩、いったい何なんですか? こいつ、和美さんの服を着て……」
先輩に詳しいことがわかるとは思わなかったが、俺は一応、尋ねてみた。
「ああ、こいつは……この服は、というより。この身体自体は、和美のものだ。頭の上だけが、違うバケモノになっていた……」
先輩は、緊張から解かれほっとしたのか、そこで急に涙ぐんだ。
「今日、和美が帰ってきた時……その時は、まだ和美の顔だった。和美に、化けてやがったんだ! そして、様子が明らかに違うと、俺が察すると。すぐに正体を現した。俺は、一度はこいつを殺したと思った……」
「それで、俺に電話を……?」
「ああ。頭から上はバケモノだが、首から下は間違いなく“和美”だった。どういういきさつかはわからんが。恐らく和美はこいつに襲われ、そして、頭部を乗っ取られたんだろう。それでも、元は“和美だったもの”を、俺がが殺したって事に変わりはないと思ったんだ……」
先輩は唇をかみ締め、自分に言い聞かせるように語っていた。
「しかし……こんな状態で生きていても、和美は幸せなはずがない」
俺は頷いた。
「そうですよ、先輩。和美さんは、“こいつ”に殺されたんです」
先輩はそれでもまだ、かすかに涙を流しつづけていた。
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