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「先輩、和美さんは、どこから戻ってきたんですか?」
西条が聞いた。俺も先輩も、はっと思った。
「そうか、和美は……今夜は町内の集まりがある、と言っていた。これまで滅多に、そんな集まりの誘いはなかったんだが。もしかしたら……」
「そこで、何かあったという可能性はありますね」
西条は考えながら言った。
「だとしたら……被害にあったのは、和美だけじゃないのかも……?」
西条は静かに頷いた。
「はい、その可能性も高いと思います」
俺は愕然とした。このバケモノが、もしかしたら、この町中に溢れているのかもしれない……? そこで、この家に入る前の、不気味な静けさを思い出した。この家は、先輩が刑事だったおかげで助かったが。他の家庭は? もう全て、やられてしまったのかも……??
西条が、横たわるバケモノを見降ろしながら言った。
「これは、始まりにすぎないのかもしれません。もっと大きく、恐ろしい何かの……」
先輩も答えた。
「ああ。和美はある意味、それを俺達に教えてくれたのかも……」
俺は先輩と、それから西条に、素直に聞いた。
「どうします、これから……?」
先輩は、俺と西条を交互に見て、考えながら言った。
「ひとまず、署に行って事情を説明してみよう。簡単に信じてもらえるとは
思えないが……それも、最初だけだ。いずれ嫌でも、みんな信じるようになる」
「俺達が、事情をわかってるってのは強みですよね」
俺は少しでも恐怖をやわらげようとして、そう言った。……しかし。
西条が冷静に、俺が不安に思っていたことを言葉にした。
「ああ。でもそのことをきっと、”やつら”もわかってるはずだ……」
俺達は玄関を出た。辺りは相変わらず静まり返っている。
「静か過ぎるな……」
先輩が言った。初めて、この異様な静けさに気づいたのだろう。
「ええ、先輩の家に来たときからこうでした」
「そうか……まずいな」
先輩は、さっき俺の考えたことを感じてるんだろう、と思った。すると。
しゅるるる……
かすかに、あの“触手”が動くような音がした。
「先輩!」
俺は小さく叫んだ。大声を出す気にはなれなかった。
しゅるる……しゅるる……
よく聞くと、それは一方向からだけではなかった。通りの向こうから、隣の家の隣から。気が付くと、その音に俺達はすっかり囲まれていた。
「警察まで行くかせないつもりだろう……」
西条がそう言いながら、「にやり」と笑った。こいつはこんな追い詰められた場面で、そのスリルを逆に楽しもうとする奴だ。
「先輩、弾は残ってますか?」
先輩は弾装を確かめ、答えた。
「ああ、あと数発ってとこだが」
数発……それで、切り抜けられるのか……? 俺の思いを他所に、先輩が語りかけて来た。
「勇二、運転を頼むぞ」
俺達は、俺の乗ってきた車に乗り込んだ。ここから警察署まで、数10キロ。
「いくか!」
先輩は言った。車のライトに、今はもう、あのバケモノどもの姿が「ちらっ」と浮かび上がっている。
「弾き飛ばせ!」
西条が叫んだ。俺は思いっきりアクセルを踏み込んだ。
生き残るのは俺たちか、それとも……?
果てしのない危険なラリーが、今、幕を開けた。
―了― congratulations! good ending!!
☆good ending用「特別編」→111ページへ
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