夜に、叫ぶ。

71/113
前へ
/115ページ
次へ
 俺は、音の事は気にせず、車に乗り込んだ。  ヘタに関わっちゃいけない。まず、ここから離れるのが先だ……!  俺はエンジンをかけた。必要以上に、アクセルを踏み込んだ。もう、あの音が、聞こえないようにと祈りながら。 「先輩、出発します……」  先輩は黙って頷いた。俺は車を発車させた。  車の中は、重苦しい沈黙で包まれていた。こんな時に、音楽を聴くのもためらわれる。俺は先輩に話し掛けた。 「先輩、どうしますか? まっすぐ警察に行ってもいいですし……とりあえず、ウチにでも寄りますか……?」  先輩は、黙って首を横に振った。 「そうですか……」  まっすぐ、警察へ。そして先輩は、俺にした話を、警察でもするのだろうか……?    「あの話は、内緒だ」  俺の心配を感じ取ったのか、先輩の方から口を開いた。 「あの話は、もうしないよ。お前だけが、わかってくれてればいい……」  俺は黙って頷いた。いや、俺も全て信じたわけではない。しかし、俺は先輩と和美さんを良く知っている。こんな理由以外に、先輩が和美さんを殺す理由は見つからない。 俺は、自分を納得させる為にも、あの話を信用する事に決めた。  目の前に、警察署が近づいてくる。俺は少しスピードを緩めた。先輩は覚悟を決めたように、ちょっと背筋を伸ばした。 「いきますよ、先輩」 「ああ……」  俺はブレーキを踏んだ。  俺と先輩は、車を降り、目と目を合わせた。  さあ、行こう。  俺達は、少し微笑みながら、警察の入口を一緒にくぐった。       ―了― (Bag ending-#15)
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加