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俺は、音の事は気にせず、車に乗り込んだ。
ヘタに関わっちゃいけない。まず、ここから離れるのが先だ……!
俺はエンジンをかけた。必要以上に、アクセルを踏み込んだ。もう、あの音が、聞こえないようにと祈りながら。
「先輩、出発します……」
先輩は黙って頷いた。俺は車を発車させた。
車の中は、重苦しい沈黙で包まれていた。こんな時に、音楽を聴くのもためらわれる。俺は先輩に話し掛けた。
「先輩、どうしますか? まっすぐ警察に行ってもいいですし……とりあえず、ウチにでも寄りますか……?」
先輩は、黙って首を横に振った。
「そうですか……」
まっすぐ、警察へ。そして先輩は、俺にした話を、警察でもするのだろうか……?
「あの話は、内緒だ」
俺の心配を感じ取ったのか、先輩の方から口を開いた。
「あの話は、もうしないよ。お前だけが、わかってくれてればいい……」
俺は黙って頷いた。いや、俺も全て信じたわけではない。しかし、俺は先輩と和美さんを良く知っている。こんな理由以外に、先輩が和美さんを殺す理由は見つからない。 俺は、自分を納得させる為にも、あの話を信用する事に決めた。
目の前に、警察署が近づいてくる。俺は少しスピードを緩めた。先輩は覚悟を決めたように、ちょっと背筋を伸ばした。
「いきますよ、先輩」
「ああ……」
俺はブレーキを踏んだ。
俺と先輩は、車を降り、目と目を合わせた。
さあ、行こう。
俺達は、少し微笑みながら、警察の入口を一緒にくぐった。
―了― (Bag ending-#15)
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