夜に、叫ぶ。

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 俺は、「誰か助けてくれ!」と泣き叫んだ。 「先輩が……先輩が死んじまう!」  俺はあたりかまわず叫んだ。そうしていなければ、気が狂いそうだった。 「ははは! 情けない奴だ! そうやって泣きわめいても、どうにもならんだろう?」  仁美があざけり笑う。でも、俺は目の前の出来事が信じられなかった。先輩からの、和美さんを殺したっていう電話。そして実際この目で、和美さんの死を確認したのに……今度は姉さんの“仁美”だって?  それがこんな化物みたいな力を振るい、先輩を殺そうとしている。こんな事、信じろって言う方が無理だ! 「わははははは!」  仁美が「はっ」としてこちらを見た。俺は、いつの間にか大声で笑い出していた。涙を流しながら、笑い続けていた。 「こんな……こんな事、あるかよ。はははは……!! どうなってんだ、いったい。ありえない、絶対……!」  俺は首を横に振りながら、まだ笑い続けていた。自分では、その笑いを止けることは出来なかった。  仁美が、そんな俺を、じっと見つめている。 「ふん、気が違ったか……」  何度も床に叩きつけられ、もう先輩の身体は動かなくなっていた。ふいに俺の身体に、圧力がかかった。……そう思った瞬間、あっという間に、目の前に床が近づいてきた。  がつんっ!!!  ひどい痛みと、衝撃が全身を襲った。そしてゆっくりと、俺は身体を引き起こされた。 「楽にしてやろう……」  仁美がにやりと笑った。また、あの圧力とともに、俺は床に叩きつけられた。    ぐしゃっ!  ……嫌な音がした。どこかの骨が、確実に折れた。 『ははは……嘘だ、こんなの嘘だ……ははは……』  俺は心の中で、まだ笑い続けていた。もう正気を保つ事は出来なくなっていた。  もう一度引き起こされた時、仁美がこちらを見て笑った。 「これで、私の復讐も終わる……」  ぐわんっ!!  全身がふるふると震えた。意識が遠のく。こんなはずじゃない、こうなるはずじゃなかった。どこで間違ったんだ……?  遠ざかる意識の中、俺は記憶をたどり始めていた。  ははは……はは……全部嘘だ、きっと……  そして、傍らに横たわる先輩の姿が、俺の最後の記憶になった。      ―了― (Bad ending-#16)
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