夜に、叫ぶ。

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 俺は結局、仁美に許しを請うことにした。  ……こうなっては仕方が無い。せめて、命だけは助けてもらおう……。 「仁美……仁美さん、許してくれ。俺は、俺はまだ、生きていたい……」 「わはははは! 本当に許しを請うとはな! 芯から情けない奴だ!」  仁美の勝ち誇った笑いが響く。もう、勘弁してくれ……。俺は泣きながら、更に言葉を続けた。 「情けなくたっていい。死ぬよりは、よっぽどマシだ……!」  それでも仁美はまだ、笑い続けていた。  そして、さんざ嘲った後、つまらなそうに言った。 「ふん、もう少しホネのある奴かと思っていたがな。とんだ思い違いだ」  俺の身体が、静かに床へと降りていった。俺は、その場にへたりこんだ。 「望みどうり、命だけは助けてやるよ。だが、一生”この痛み”を覚えて生きていくがいい!」  仁美の身体から「ふっ」と力が抜け、崩れ落ちた。  ……行っちまったのか……? 「勇二さん……」  ……! か、和美さん……?! 「勇二さん……ごめんなさい、私のために……」 「和美さん! ……まだ、生きていたの?」  俺は和美さんの身体に駆け寄った。しかし、その身体はピクリともしない。 「ううん……私は、あの人の手で命を絶たれた。今は、仁美と同じ、魂だけの存在……」  和美さんの冷たくなった体から、声だけが響いてくる。俺は、泣きじゃくりながら叫んだ。 「嫌だ! 和美さん、いかないでくれ!」  身体を揺さぶっても、もう手ごたえは無い。和美さんの声だけが、俺の頭に響いてきた。 「ごめんなさい……もう、いかなきゃ……勇二さん、勇二さんの気持ち、嬉しかった……」 「和美さん!!」  俺はもう、今にも気が狂いそうだった。 「さようなら……」 「和美さん! 和美さん!!」  俺は動かなくなった身体に叫び続けた。だがもう、あの声は、二度と聞こえてこなかった。 「うわあああああっ!」  俺は一人、絶叫した。いつまでも、いつまでも。  それは、終わる事の無い、絶望的な叫びだった。  俺の叫び声だけが、誰もいなくなった家中にこだましていた……。      ―了― (Bad ending-#17)    
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