19人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、どこか逃げ道はないかと、あたりを見回した。
「なにをきょろきょろしている……?」
仁美が「にやり」と笑った。そして、俺の背後のドアに目をやると、一点を睨みつけた。
「んんんっ!」
仁美が唸るような声をあげると、ドアノブがきりきりと回転し始めた。そして、がくん! という音とともにノブがはずれ、床へと落ちた。……退路は、断たれた。
俺は改めて、仁美を睨みつけた。
「やりやがったな……?」
仁美は俺を見て、嬉しそうに笑った。
「ふふ、さあ、どうする?もう逃げ道はないぞ?」
もう、後へは引けない。目の前にいる、この“怪物”をなんとかしなければ、ここからは出られない。俺は痛みをこらえながら、ドアに背をもたれかけ、なんとか身体を起こした。
「やってやるぜ……」
仁美はくすくす笑っている。
「ふふふ、その身体でどうしようっていうんだ?」
完全にこっちをなめきっている。チャンスだ……!
俺は立ち上がろうとする途中で、「がくっ」と体勢をくずした。
「うう……」
痛みに耐え切れぬかのように、身体を押さえてうずくまる。
「ははは、口だけか!」
仁美が一、瞬目をそらした。今だ!
俺は右手でライターに火を点け、仁美の足元に、頭から滑り込んだ。
「あっ!!」
仁美が驚いた瞬間、俺は仁美のはいていたスカートに火を点けた。
ぼうっ!!!
火はたちまちスカートに燃え上がり、仁美の下半身を覆った。俺はそのまま階段奥の廊下へと転がった。
「き・さ・ま……!」
仁美は火を消そうともがいたが、暴れたことで、かえって火の勢いを増してしまった。今や炎は仁美の全身を包もうとしていた。
「があああっ!」
仁美はこちらを振り返り、俺の姿を探した。俺は廊下の角に身を隠し、仁美を誘った。廊下の更に奥には、キッチンがある。思惑通り、仁美は俺の方へ突進してきた。
最初のコメントを投稿しよう!