夜に、叫ぶ。

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 俺は、どこか逃げ道はないかと、あたりを見回した。 「なにをきょろきょろしている……?」  仁美が「にやり」と笑った。そして、俺の背後のドアに目をやると、一点を睨みつけた。 「んんんっ!」  仁美が唸るような声をあげると、ドアノブがきりきりと回転し始めた。そして、がくん! という音とともにノブがはずれ、床へと落ちた。……退路は、断たれた。  俺は改めて、仁美を睨みつけた。 「やりやがったな……?」  仁美は俺を見て、嬉しそうに笑った。 「ふふ、さあ、どうする?もう逃げ道はないぞ?」  もう、後へは引けない。目の前にいる、この“怪物”をなんとかしなければ、ここからは出られない。俺は痛みをこらえながら、ドアに背をもたれかけ、なんとか身体を起こした。 「やってやるぜ……」  仁美はくすくす笑っている。 「ふふふ、その身体でどうしようっていうんだ?」  完全にこっちをなめきっている。チャンスだ……!  俺は立ち上がろうとする途中で、「がくっ」と体勢をくずした。 「うう……」  痛みに耐え切れぬかのように、身体を押さえてうずくまる。 「ははは、口だけか!」  仁美が一、瞬目をそらした。今だ!  俺は右手でライターに火を点け、仁美の足元に、頭から滑り込んだ。 「あっ!!」  仁美が驚いた瞬間、俺は仁美のはいていたスカートに火を点けた。  ぼうっ!!!  火はたちまちスカートに燃え上がり、仁美の下半身を覆った。俺はそのまま階段奥の廊下へと転がった。 「き・さ・ま……!」  仁美は火を消そうともがいたが、暴れたことで、かえって火の勢いを増してしまった。今や炎は仁美の全身を包もうとしていた。 「があああっ!」  仁美はこちらを振り返り、俺の姿を探した。俺は廊下の角に身を隠し、仁美を誘った。廊下の更に奥には、キッチンがある。思惑通り、仁美は俺の方へ突進してきた。   
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