夜に、叫ぶ。

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 仁美が、俺めがけて挑みかかろうとした時。俺はキッチンに飛び込み、調理用の油を手にとった。そして、それを仁美めがけ投げつけた!  ぼうんっ!!! 「ぎゃああああああっ!」  物凄い悲鳴とともに、仁美の身体が燃え上がった。  仁美は半狂乱になり、キッチン中を転げ回った。俺は仁美を避けながら、玄関へと足早に戻った。倒れている先輩を担ぎ上げ、階段を登り始めた。2階の部屋にたどり着き、ドアを固く閉める。もう、ここまでは追ってこれまい……!  俺はその場にへたりこんだ。一気に、体中の痛みが襲ってきた。階下では、まだ仁美の暴れ回る音が聞こえる。このままでは、家中が火の海になるだろう……。もう一仕事、やらなくては。  俺は部屋に置いてあった布団を抱えた。先輩が倉庫代わりに使っていたこの部屋に、古い布団が畳まれて置かれていたのだ。部屋の窓から布団を吊り下げ、もう一度先輩を抱えた。 「くくくっ……」  力を振り絞り、俺は先輩を抱えたまま、布団によじ登った。 「くあっ!」  布団の端を掴み、俺は抱きかかえた先輩と一緒に布団にくるまるようにして、地面へと落下した。  があん……!!  もう、何度目の衝撃だろう。地面に叩きつけられ、俺は気を失いそうになった。布団一枚じゃ、たいしたクッションにはならなかったな……。俺は痛みに身をよじりながら苦笑した。 「勇二……?」  先輩が俺を見ている。どうやら逆に、先輩は今のショックで意識を取り戻したようだ。 「勇二、いったい何が……」 「まあ、色々と……。先輩、大丈夫すか?」  その、時。  がっしゃああああん!!  居間の窓を突き破り、炎と化した仁美の身体が、飛び出してきた!! 「わあああああっ!」  俺と先輩は飛びのいた。仁美はまっすぐに突進し、そしてその勢いのまま、もんどりうって倒れこんだ。  しかし……仁美は、それ以上動かなかった。横たわる仁美の身体に、まだ炎が燃え盛っていた。恐らく外へ飛び出したのが、断末魔のあがきだったのだろう。  俺は先輩を見つめ、少し微笑み。それから、全てから開放されたかのように、目を閉じ。ゆっくりと、気を失った。     ―了― (Little good ending)    
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