夜に、叫ぶ。

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 俺は、その場にただ立ち尽くしていた。 「先輩っ!」  西条が叫んだ。さっ、と拳銃を構え、バケモノに狙いをつけた。  ぴしっ!  触手の一本が「しゅっ!」と伸びると、西条の手から拳銃を弾き飛ばした。 「くそおっ!」  西条は飛ばされた拳銃を拾おうと身を伸ばした。すると、数本の触手が西条目掛けて襲い掛かった。 「うわああっ!」  西条はたちまち触手の餌食となり、全身を捕らわれた。 「西条!」  先輩が叫んだ。先輩は、残りの触手に捕らえられ身動きできない。 「くそおおおっ!」  西条はなんとか逃れようともがいたが、逆に触手は、その締め付ける力を強め始めた。 「ぐっ、ぐううっ」  触手の何本かは西条の上半身を、あとの何本かは下半身を締め付け。そして、その締め付ける力は、上半身と下半身で、全く逆方向を向いていた。  俺は、最悪の予感に襲われた。 「やめろおおおっ!」  俺はそこで初めて、声をあげて叫んだ。しかし目の前で、最も俺の恐れていた事が起こった。  西条の身体は、上半身を右方向に、下半身を左方向に。恐ろしい力で捻られた。  ぎゅんっ……!!  聞いたこともないような、恐ろしい音が響いた。  西条は、ちょうど腰のあたりで。上半身と下半身を、真っ二つにねじ切られた。 「西条おおおおっ!」  俺は泣き叫んだ。目の前で起きた事が信じられなかった。西条の身体は、泣きわめく俺の足もとに、「ぼとん……」と。無造作に転がされた。上半身は手前に、下半身は向こう側に。その切り口からはとめどなく大量の血が吹き出ている。俺は転がされた西条の上半身の、その目と「目が合った」。 「……」  まだ、息がある?!  ……それは勘違いだった。ついさっきまで生きていた時こと、名残に過ぎなかった。西条の口からぶくぶくと、血の混じった泡が吹き出でいた。それは、生きているものの吐くものではない。 「うわあああああっ!!」  俺は絶叫した。 「うわああ、うわああああああっ!!!」     それは、腹の中から全てを吐き出してしまうかのような、絶叫だった。  そして、俺は。西条の拳銃が落ちているのを見つけた。  ……許さない。  俺は何かに駆られるように、拳銃に手を伸ばした。そこでまた、あの触手が襲ってきた。俺はためらわず、西条の亡骸を持ち上げると、触手の前に突き出した。
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