19人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、その場にただ立ち尽くしていた。
「先輩っ!」
西条が叫んだ。さっ、と拳銃を構え、バケモノに狙いをつけた。
ぴしっ!
触手の一本が「しゅっ!」と伸びると、西条の手から拳銃を弾き飛ばした。
「くそおっ!」
西条は飛ばされた拳銃を拾おうと身を伸ばした。すると、数本の触手が西条目掛けて襲い掛かった。
「うわああっ!」
西条はたちまち触手の餌食となり、全身を捕らわれた。
「西条!」
先輩が叫んだ。先輩は、残りの触手に捕らえられ身動きできない。
「くそおおおっ!」
西条はなんとか逃れようともがいたが、逆に触手は、その締め付ける力を強め始めた。
「ぐっ、ぐううっ」
触手の何本かは西条の上半身を、あとの何本かは下半身を締め付け。そして、その締め付ける力は、上半身と下半身で、全く逆方向を向いていた。
俺は、最悪の予感に襲われた。
「やめろおおおっ!」
俺はそこで初めて、声をあげて叫んだ。しかし目の前で、最も俺の恐れていた事が起こった。
西条の身体は、上半身を右方向に、下半身を左方向に。恐ろしい力で捻られた。
ぎゅんっ……!!
聞いたこともないような、恐ろしい音が響いた。
西条は、ちょうど腰のあたりで。上半身と下半身を、真っ二つにねじ切られた。
「西条おおおおっ!」
俺は泣き叫んだ。目の前で起きた事が信じられなかった。西条の身体は、泣きわめく俺の足もとに、「ぼとん……」と。無造作に転がされた。上半身は手前に、下半身は向こう側に。その切り口からはとめどなく大量の血が吹き出ている。俺は転がされた西条の上半身の、その目と「目が合った」。
「……」
まだ、息がある?!
……それは勘違いだった。ついさっきまで生きていた時こと、名残に過ぎなかった。西条の口からぶくぶくと、血の混じった泡が吹き出でいた。それは、生きているものの吐くものではない。
「うわあああああっ!!」
俺は絶叫した。
「うわああ、うわああああああっ!!!」
それは、腹の中から全てを吐き出してしまうかのような、絶叫だった。
そして、俺は。西条の拳銃が落ちているのを見つけた。
……許さない。
俺は何かに駆られるように、拳銃に手を伸ばした。そこでまた、あの触手が襲ってきた。俺はためらわず、西条の亡骸を持ち上げると、触手の前に突き出した。
最初のコメントを投稿しよう!