夜に、叫ぶ。

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 びしっ! びしっ!!  触手の攻撃を防御するため、俺は西条の上半身を「壁にした」のだ。好きなだけ、遺体をいたぶればいい。だが、お前は許さん!!  触手がいらついたかのように、「びゅん!」と西条の千切れた身体を弾き飛ばした。一瞬、攻撃の間が開いた。……今だ!  俺はさっと拳銃を拾い上げると、そいつの頭に。熟れたザクロのような部分に、押し当てた。 「これで、終わりだ!」  ダン! ダンダンッ!!  俺は続けざまに引き金を引いた。  びしいっ!  俺の身体を、触手がムチのように弾いた。しかし、俺は左手で、そいつの身体をしっかりと抱き寄せた。 「離さんぞ……」  それから、右手でザクロの部分を抱え、人間だったらこめかみにあたる部分に、ありったけの銃弾を撃ちこんだ。  ダン! ダン! ダンッ!!!  びしっ! びしいっ!!!  狂ったように、触手が俺を打つ。だが、俺はヤツを離さなかった。  ダンッ……!  最後の一発を撃ち終えると。その時、俺を痛め続けていた触手はすでに、「だらん……」と動かなくなっていた。俺は全身の力が一気に抜け、その場に座り込んだ。       「勇二!」  触手のいましめから逃れた、先輩が俺を抱き起こした。 「勇二、逃げろと言ったのに……なぜ……」  俺は少し笑って答えた。 「何言ってんすか。呼んだのは、先輩っすよ……?」 「すまん、俺は……あいつを、一度は殺したと思い。お前に事情を話そうと思って……お前なら、こんなとてつもない話でも信じてくれると……!」  先輩は涙を浮かべていた。自分の目の前で、後輩の一人が無残な最期を遂げ、もう一人は傷だらけになっている。それを悔やんでいるのか……。 「先輩は……無事、だったんですね。よかった……」  俺は身体に力が入らなかった。意識も、少しずつ遠のいてきている。  これが、「最期の時」ってやつか……。 「勇二! お前まで……お前まで、死なないでくれ!」  先輩は泣きながら、俺にすがるように叫んでいたが。すいません、先輩。その期待には、答えられないみたいです……。  もう、喋ることもできなかった。俺はそのまま静かに、ゆっくりと目を閉じた。 「勇二! ゆうじいいっ!」    先輩の声が、遥か遠くのように聞こえる。  先輩の胸に抱かれて死ねるのなら……それは、本望かもしれない。  俺はその時、なぜかそう思っていた。  そして、全ての感覚が、俺の中から失われていった……。     ―了― (Bad ending-#19)
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